かもめ食堂 シネスイッチ銀座初回舞台挨拶
封切館シネスイッチ銀座へ、封切り日に。
しかも、初回映写。
さらに、初回映写直後には監督、主演3人、原作者の5名による舞台挨拶付き。
映画の舞台挨拶というイベントに行くなんて、学生時代以来ではないだろうか。
シネスイッチ銀座での舞台挨拶は、この封切り日に2回行われており、このうち第2回目の舞台挨拶は、ウェブメディアとしてCINEMA TOPICS ONLINEが報じている。
私が立ち会うことができた初回舞台挨拶では、挨拶者らは、立ち見客もいる場内の雰囲気に驚かれたようで、場慣れしていておかしくないはずの俳優らも作家も、なんだかぎこちなさがあった。一方、CINEMA TOPIC ONLINEの報告を文字で見る限りでは、2回目の舞台挨拶の方がリラックスしている様子。
CINEMA TOPIC ONLINEの報告には書かれていない、初回舞台挨拶の様子を思い出すと...(以下の発言、行動は、一言一句正確なものではなく、特に発言はあくまで私の記憶に基づく発言趣旨を起こしたものに過ぎない。)
群ようこ:おととしの1月に企画をもらい、9月に書き上げた。それから思うと長かったようで、あっという間のようです。
片桐はいりは、映画界にあこがれていた"20年前"、当時「銀座文化劇場」と称していたこの映画館でチケットもぎりバイトしていた。そこでかかっていた映画の中には、小林聡美主演「転校生」*1がある。片桐はいりによるこのエピソードは、上述のCINEMA TOPIC ONLINEでも報告されている。
片桐はいり:今私が、まさにその映画館のスクリーンに映り、しかも小林聡美さんと一緒に映画に出演して、ここに一緒に立っているのです。
さて、私は。当時、「転校生」に衝動押さえがたく、ロケ地尾道へ出かけてしまっている。「転校生」という体験が、映画館の箱の空間に、皆の胸の中に、去来する。
この時、舞台の上では、当の小林聡美は、NOVAうさぎのような気取りぶりで、両手を腰に、片足を前に、軽く胸を反らせてポーズを決めていた。
この格好付けは、彼女流のおどけぶり、照れ隠しであり、とても、とても、小林聡美らしい。
荻上監督:この映画館「アメリカ、家族のいる風景」「蝶の舌」を私はここで立ち見してみましたが、今日は立ち見のお客様もいて下さって...」
(以降の言葉を流ちょうに継ぐことができず、MC(日本テレビ・アナ)が引き取ってくれる。)
MCから、『かもめ食堂』がシネスイッチ銀座の前売り券発売数記録更新を達成した、という紹介を受けて
小林聡美:それって(この映画の)フードコーディネーターが50枚、券を押さえたから?
とボケる。周りから、「(更新した記録は)その程度では、ききませんよ」と、たしなめられていた。
さっきの小林聡美の格好付けポーズにしてもそうだが、このボケも舞台挨拶の前に打合せを済ませた想定されたやりとりではなかったのか、とも思える...。
でも、それにしては、小林聡美のボケはボケのために特に肩に力を入れたものではなく、たしなめる方もすかざずではなく、やや虚を突かれたように多少の間をおいてからの突っ込みだった。もしかすると、小林聡美のあのボケは、素、だったのかもしれない。
もたいまさこは、舞台あいさつ2回目では映画のことを「たるーい」と言っていたそうだが、初回あいさつの時には別の言い方をしていた。
もたいまさこ:ゆるーい映画です。けれども、お友達に言う時には、『かもめ食堂って、ゆるーい映画だったけど、なんだかよかったよ』、『え、どうして、どうして?』と、ちょっと興味を引くように言ってあげてくださいね。
以下、順次、ネタバレ。
私の感想は、「ゆるーい」よりも、なるほど、むしろもたいまさこが言い直した「たるーい」の方が、この映画の筋書きのことをよく言い指しているかもしれない、と思う。
映画「かもめ食堂」、正直、筋書きには深みがあるとは言えず、そのため、万人受けになる作品になるかは、わからない。
しかも、出演する女優たちは、アイドルという柄でもなければ、吉永小百合や黒木瞳のような超美人でもない。
それでもこの映画は、この3人の女優の"ダシ"をよく取って、それを澄まし汁のようにして(贅沢な)海外オールロケの中での"日常"を通して饗しようという企画として、結構面白いと思う。
とりわけ、テレビ番組の「やっぱり猫が好き」(もたいまさこ、小林聡美)、「すいか」(さらに片桐はいりも加わる)を見ていた人たちには、感慨深いものになることはほぼ間違いないでしょう。
映画「かもめ食堂」のいいところ(すっごくいいところ)は、他で語られていると思うので、以下、あえて苦言を申すと。
映画の尺の中で、「かもめ食堂」(+(映倫))というタイトルを出すタイミングについて。どうして、映画の冒頭の冒頭に映すスチール写真で、早々にタイトル出しをしてしまうのだろう。プロローグのかもめ達のシーンの間までずっと溜めておいて、そのシーンから切り替わって食堂が映されるところ、そこで食堂のガラス窓に貼ってあるお店の名前をもって、タイトル出しとすれば印象深いのではなかったのか。
映画のプロローグで出てくる猫と、エピローグの猫を関係づける脚本にすればよかったのではないか。エピローグの猫は、実際、プロローグの猫のイメージに合致するのくらいに...。でも、もしそれをしてしまうと「やっぱり猫が好き」に対して失礼ではないかと、遠慮してしまったのだろうか。そして、今の私が想像を膨らませるように、映画にはちょっとくらいほつれ目を残しておいた方がよいかもしれない。
ミドリは「地図を開いて指さしたところ」とされるが、これは現実味に欠けないか?地図帳を開いて、や、地球儀を回して、なら理解できるが。メルカトル図法の世界地図では目をつぶって指を指そうにもあらかじめヨーロッパ辺りという予断を持っていたのではないだろうか。ま、ミドリも、サチエ同様、その場の出任せでフィンランドの理屈付けをしただけかもしれない。
マサコが口にしたエアギター。なぜ金剛地武志の演奏のワンシーンをここで持ってこないのか!ミドリのアラスカ、タヒチの想像シーンを入れ込むほどのことができるのなら、それくらいできたはずでは。
荻上直子の監督。テレビっぽい安ぽさ、安直さが感じられる面が少々あるものの、撮影のフレーミングや長回しのセンスには、興味がそそられた。
ロケの食堂は、ヘルシンキに実在する。ザ・フィンラン道!がKahvila Suomiを紹介しており、Google Mapの衛星写真で見ると、ここら辺になる。
シネスイッチ銀座で購入できる「かもめ食堂」パンフレットの装丁はかなり凝っていて、パンフレット本体を、旅行カバンを模した二つ折りの型紙でくるんで、しかもカバンの取っ手に糸で荷札まで付けている。かなりユニーク。
惜しむらくは、そのパンフの中に収録されているスチールの中に、マサコが携帯電話をかける岸壁のシーンが含まれていないことである。そのシーン、背景にはシリヤラインの客船が浮かんでいたのに。私もかつてユーレイルパスを握りしめて2等船室に乗船した、あのシリヤライン!
フィンランド。物価は高いし、観光するには何があるわけでもなかったんだけど(タンペレのムーミン谷博物館くらいしか見なかったけど)、触れた人はそういえばよかったよな。