やはり、音楽は「世界の言葉」

 フィンランドオウルでのエアギター世界選手権2006グランドファイナル。ストリーミングライブ放送を日本時間9月9日午前3時20分から5時過ぎまで視聴。

 午前3時20分のオープニング、ステージに登場するのは前座のジャグラー達。クラブ(ボーリングのピンみたいなやつ)を”お手玉”するあのパフォーマンスである。エアギターの大会なのに、エアークラブではなく、実物のクラブを振り回す。

 実は前座ジャグラーの舞台にかかる音楽は、あの金剛地武志が2年前の世界選手権で自由試技曲に使った映画キルビルの Battle Without Honor or Humanity。

 司会(一人の男性)が登場して、ルールの説明、審判の紹介など。

 グランドファイナルは、出場者(今回は17人)が自由試技として自らが持ち込む1分間の楽曲に合わせてパフォーマンス。その後、上位10人が規定試技として会場その場で聞かされる楽曲1分間を演奏。自由試技と規定試技の得点を合計して、上位3名が入賞。チャンピオンには、本物のエレキギター a hand-made Flying Finn electric guitar と、Queenギタリスト Brian May のアンプが副賞。

 自由試技も規定試技も、5人の審判が6.0点満点で採点し、最高得点と最低得点を除いて、間の3人が付けた点を合計したものが、試技の得点となる。

 自由試技が始まる。司会はフィン語(フィンランドの言葉)と英語とを一人で使って進行する。司会や出場者は、試技の前の気合いに Kick ass, Kick some asses と連呼することがあったりして、ちょっと下品。他にも、hit the floor, get it on, keep rocking というフレーズをあったっけな。

 出場者17人の登場順はくじ引きだったという。そのうち、日本人出場者3人をみると、金剛地武志ダイノジおおちSUPER IQの順で登場。

 ところで、今年のグランドファイナルには、女性出場者がいなかった(後日付記 訂正。一人いました。)。ちょっとソノ気がありそうな男はいたけど。

 金剛地武志。3年連続出場。一昨年、昨年と、連続4位の記録を残したということは、日本国内でだいぶ浸透された。今年の日本大会で1位タイで、日本代表として出場。

 ステージに登場すると、フィン語のフレーズを6つくらい口にして会場に呼びかける。英語ではなくフィン語で会場にアピールしたのは、金剛地だけであった。

 何を言っていたのかわからないが、その言葉の説明は帰国後のJ-Wave Tomorrowの放送で報告があることだろう。金剛地のこのサービス精神は、3年目の余裕というか、貫禄というのか、だろう。

 金剛地は、もはやトレードマークか、ジャパニーズ銀縁メガネのスーツ姿、そしておもむろにネクタイを頭に締めて...

 今年の曲は、ベートーベンの第九にクロスオーバーするエレキギター。一昨年、昨年と、その時の記憶にまだ新しい世界公開映画の音楽(キルビルスターウォーズ)であったが、趣向を変えたのか。

 自由試技で持ち込まれる音楽。他の出演者の多くは、1分が経過すると音楽の途中でプツンと演奏が切れてしまうので、いい加減というか間抜けである。

 一方、金剛地はいつも1分できれいに完結する音楽をアレンジして作り込んでいる。小さなところに「世界」を作ってしまう日本の庭園文化、幕の内弁当文化は、こんなところにも現れるのだ。

 試技中、金剛地はもう一ひねりを加える。ワイシャツの前をはだけると、S の字の青シャツ、スーパーマンだ。楽曲とは重なっていないが、世界公開された「スーパーマンリターンズ」を意識か。世界公開映画を意識した舞台作りは、こんな形で発露された。

 得点は17点を超え、けっこうの反応を得る。(試技については、そのうちビデオクリップが、公式ウェブにアップされるでしょう)

 司会は、金剛地に「アリガト」と声をかける。「アリガト」は、後に出てくるおおち、SUPER IQの試技の後にも司会は口にしていた。

 ダイノジ・おおち。金剛地と同じく、今年の日本大会で1位タイ。その時点で彼はグランドファイナルの出場権利を手にしているはずだが、グランドファイナル前日に行われたQualifying Roundにも出場したという。この大会公式ページには細かいことは書いていないが、Air Guitar Japanの報告によれば、ダイノジ・おおちがトップ通過したのだという。

 ステージで、司会からの"What do you do?"という振りに、おおちは"OK!"と返す。

 そんなコミュニケーションで大丈夫か?ま、他のヤンキーの猿まねして Kick ass 品のない言葉を口にする真似をされるよりはましか。

 おおちは、カンフー映画にいかにも出てきそうな太っちょ体型・虎の大きな顔のスウェットシャツ、そしておもむろに黒いサングラスをかける。そういえば、サングラスをかけたのは、グランドファイナル参加者中、彼だけだった。

 受けた。会場は受けている。小回りのきくデブって、こんなに人気が出るのか。あるいは、その風貌が、プレスリーを彷彿とさせているとでもいうのか。

 さっきの司会とのトンチンカンな会話のことは飛び去ってしまった。

 音楽が「世界の言葉」であることが、ここに体現されている。

 得点は金剛地を上回った。

 SUPER IQ登場。1分間のうちに3つの楽曲が編集されていて、3番目の楽曲は、本人がかぶるキャップもそうだったが、スーパーマリオ。ここでも日本がアピールされる。

 しかし、点はそれほど伸びず。

 日本時間4時20分頃に17人の自由試技が終わり、20分ほど休憩。ストリーミング映像には、ちょっとコマーシャルメッセージが入り、あとは、会場の喧噪が流される。

 日本時間4時40分頃に再開。規定試技に勝ち進んだ10人が下位から呼び上げられる。司会が TAKESHI と呼びよせた金剛地は4位として登場、そして司会が DAINOJI と呼びよせた おおち は堂々の1位。

 おおちが登場すると、会場の興奮が高まるのがわかる。

 司会が規定試技の曲を紹介。"Who's Your Daddy" 今年の http://www.eurovision.tv/english/finland.htm 優勝者の Lordi による最新シングル曲だという。ステージ上に立つ10人が曲を聴かされ、すぐに規定試技開始。

 規定試技は、先ほどの自由試技での下位の者から上位の者への順に進行。すなわち、自由試技で高い点を上げていれば上げているほど、自分の番までによりたくさん事前に曲を聴くことができ、より有利な立場にいられる仕組みになっている。

 金剛地。試技の前に、儀式のように、ネクタイを頭に巻き、さらにワイシャツを細くはだける。スーパーマン青シャツは脱いでしまったようだ、そのまま肌が。

 得点は、悪くはないが、高くもない。この点以上の点は、すでに誰かによってたたき出されている。これでは、規定試技での逆転を望めないどころか、順位を落としてしまう可能性も。2年連続世界4位がとぎれてしまうのか。

 おおち。会場が盛り上がっている。会場の興奮を取り込むおおちの姿は、会場とフィードバックしあっているよう。

 採点では、5.9 続出。そして、グランドファイナルを通して、初めて 6.0 を掲げる審査員も。圧勝は明らかであった。

 5分ほどのブレークの後、上位の3名が入賞者としてステージで紹介される。

 おおちが優勝。

 ステージで呼ばれた名前の DAINOJI が、聴衆から連呼される。商品のギターとアンプが手渡され、しまいには、あの巨漢が誰かに肩車され...。

 司会が叫ぶ。アリガトー。聴衆も、アリガトーと一斉に返す。

 司会がフィン語で説明を加えたのが聞き取れた(ように思えた)。「アリガトーっていうのはキートス(フィン語でありがとう)の日本語だぜ」。

 エアギターの聖地、オウルに、歴代初の日本人チャンピオンがここに誕生し、受け入れられた瞬間である。

 ステージには入賞者以外の者も呼ばれた。Rocking in the Free World を全員でプレイして、授賞式の興奮は最高潮に達する。(この曲は、紅白歌合戦で言えば蛍の光日本テレビ24時間テレビで言えばサライ、に当たるものらしい)

 おおちは、他の演奏者を差し置いて ひとり ステージのお立ち台の上に上がり、まさに勝者。曲の後半になると、ステージの突端に出てきた。もう一人の日本人規定試技出場者、金剛地とも並ぶ形でエアギター。同じ日本からの出場者であるのに、2人の体型や衣装が、なんとも対照的である。

 Rocking in the Free World が終わる歓声の中、規定試技10人はステージの突端に体を投げ出し、次々に体を折り重ね合い、わけのわからない興奮の中で、ストリーミングライブは会場の中継を終えた。