法人企業統計調査と従業員給与

 会社が作成する損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S バランスシート)といった財務諸表。

 法人企業統計とは、この財務諸表を「日本株式会社」として総足し上げしたものである、と私は思ってきた。

 ところが、9月4日のasahi.comの記事には、不思議なものが。

企業収益、売上高とも過去最高を更新 法人企業統計

 財務省が4日発表した05年度の法人企業統計調査によると、全産業の売上高は前年度比6.2%増の1508兆1207億円、経常利益は同15.6%増の51兆6926億円だった。売上高は3年連続、経常利益は4年連続の増加で、いずれもバブル期を上回って過去最高。一方、パート・アルバイトを含む従業員給与は同0.5%減の351万円で、3年連続のマイナス。ピーク時の97年より10%下がり、大企業と中堅・中小零細企業との給与格差が目立つ。

 従業員給与351万円というのは、一人当たり従業員給与のように見える。

 ところで、一般にP/Lには販売管理費や人件費の総額はあっても、従業員給与を一人当たりにして表すことはない。このことの類推から、法人企業統計で一人当たり従業員給与を計上するということは不自然に見える。

 実際、法人企業統計調査のページの「調査の結果」→「年次別調査」→「平成17年度 PDF形式」を見ても、従業員給与に関する計数や、351万という数字など見あたらない。

 そもそもhttp://www.mof.go.jp/ssc/gaiyou.htmを見ても、

調査の概要
6.調査の項目

 調査項目の用語は、主として「財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則」(昭和38年大蔵省令第59号)によっているが特に説明を要する項目は次のとおりである。


「役員給与」「従業員給与」「役員数」「従業員数」

 「役員数」は常勤、非常勤を問わず、経費としての給与を受ける期中平均人員であり、「従業員数」は常用者の期中平均人員と、当期中の臨時従業員(延従業時間数を1か月平均労働時間数で除したもの)との合計である。給与額は、それぞれの人員に対して当期中に支払うべき総額であり、支払原価及び販売費・一般管理費に含まれるものの合計額である。

とある。

 一体、asahi.comは、どこから従業員給与 351万円 という数字を持ってきたのだろうか。

 ところで、法人企業統計調査ページには統計データを引き出し、CSVにできるページがある。

 そこで、

法人企業統計調査
http://www.mof.go.jp/1c002.htm
 ↓
法人企業統計年次別調査 時系列データ検索
http://www.fabnet2.mof.go.jp/fsc/index.htm
 ↓
法人企業統計 年次別調査(原数値)
http://www.fabnet2.mof.go.jp/nfbsys/Nennhou_oy.htm

から、「(1)調査項目」として「従業員給与(当期末)」と「期中平均従業員数(当期末)」を引き出してみる。

調査項目 従業員給与(当期末) 期中平均従業員数(当期末)
業種 全産業 全産業
規模 全規模 全規模
開始年月 1960年 1960年
単 位 百万円
2005年 146217485 41584468

 そして、割り算をしてみると、

146,217,485(従業員給与)÷41,584,468(期中平均従業員数)=3.5161562(百万円)

  351.6万円 → 352万円

asahi.comのいう351万円とは数字がキッチリ合わないが、こんな風にして、マスコミは独自に加工しているのだろうか。