調査結果のぼんやりでも、情報源はちゃんと、ね 「13歳からの反社会学」

 パオロ・マッツァリーノの本が出るのは、世知辛い世の中での、ささかやか楽しみ。

 統計を使って世の中の見方をひっくり返すのは、ヤバい経済学だけではない。日本には、パオロ・マッツァリーノの反社会学がある。あ、この人はイタリア人だったっけ?自称だけど。

 人の関心を、下品にならない程度に、惹くテクニックを、退屈な講義の学者、つまらない演説の政治家には盗んでもらいたい。上杉隆が「脱力」*1とするなら、パオロ・マッツァリーノは「つっこみ力」。

 そんな風に注目したい彼が著した一連の反社会学本の最新刊は、これ。

 「13歳から」といっても、筆はおこちゃま向けに なまって なんかいない。相変わらず辛辣だし、作中登場する掛け合い役の中学生もブラック。

 今回の本では、パオロ・マッツァリーノによる図書館や統計の利用術が、開陳されている。いつも本の巻末に載る、怒濤の参考文献リストは、こんな彼の方法論より積み上げられていっているのか。盗んでおきたい。

 統計では、調査を実施した人の意図を探ることが大事。

 だから、一次情報に当たるべし。そして、数字だけを見るのではなく、意図を含みおいて調査結果をぼんやりと見るべし。

 第4章「なにが目的だ! -アンケート調査のおもしろさと罠-」では、"子どもに見せたくないテレビ番組"でおなじみの、社団法人日本PTA全国協議会の調査を掘っている。

 平成20年マスメディアに関するアンケート調査、子どもに見せたくない番組の総合一位は「ロンドンハーツ」。

 ここで基になっているアンケートは、調査対象は、小5,中2を持つ親御さん。

 ロンハー、と回答したのは 3.5% = 127 / 3610 だという。(13歳からの反社会学 p.143)

 3.5パーセントだけの回答で、見せたくない番組 第1位!

 それじゃ、学校の1学級の中で、「見せたくない」と言う親がひとりかそこら回答するだけで、「第1位」に祭り上げられるのか?

 おや、ちょっと待てよ。この本の3ページ前の表には、ロンハーを見せたくないと答えた親は 11.1% じゃなかったっけ(同 p.140)。

 11.1% でも少ないけど、けれどもまだ1割あるなら、へーって思えたのに、3.5% と 11.1% と数字が違うじゃないか。

 これでは本を読んでいてもよくわからない。だから、情報源、一次情報を当たりに行く。

 以下は、「13歳からの反社会学」には書いていないことになります。お付き合いください。

 ホーム | 日本PTA全国協議会から、報告書平成20年度教育に関する保護者の意識調査(平成21年3月)を見てみます。

 すると、有効回収数(小学5年生保護者+中学2年生保護者)3610人中、子どもに見せたくない番組があると答えた親は、小学5年生保護者で 30.1%、中学2年生保護者 23.2% しかいない。

 調査対象の親全体のうち、3分の1あるいは4分の1に満たない「子どもに見せたくない番組がある」と答え、そのうちの 1割 がロンハーを見せたくないと答えている。

 これが、ロンハーを見せたくないという割合が 11.1% と 3.5% の2つの数字がある、というアンケートのからくりである。

 細かいことだが、このことは 13歳からの反社会学 だけでは理解しきれないことである。

 いずれにせよ、このPTAのアンケートで意外に思えたのは、親の3分の2あるいは4分の3は、テレビ番組に対して、見せたくない番組があるとは思っていないということ。

 子どもが見る番組に対して、親がうるさく口を出してくるのもなんだけど、なんだか関心の程度が低いのではないか。

 ところで、この「13歳からの反社会学」、情報源を当たりに行っていないところがある。

 中央省庁 −− なになにしょうみたいなお役所を全部まとめた呼びかたね。その中央省庁が二〇〇七年度におこなった四三〇〇件の統計調査のうち、六割は公表されませんでした。おそらく、都合の悪い結果が出たか、さもなくば、税金使ってそんな調査する必要あんのか、と批判されそうな調査だったのでしょう。
(p.152)

 この部分、パオロ・マッツァリーノが強い味方であると言っている統計データに対して、事実誤認をしているようである。

 実際のところ、中央省庁の統計、公的統計、具体的には基幹統計と一般統計調査の結果は、試験調査などの一部を除いて、公表をしなければならないことが統計法という法律に定められている。

http://www.stat.go.jp/info/guide/public/seisaku/ho100618.htm
「平成21年度 統計法施行状況報告」(平成22年6月18日総務省政策統括官(統計基準担当))

II 公的統計の作成
 1 基幹統計

(6)基幹統計の公表の状況
 法第8条では、基幹統計を作成したときは、当該基幹統計をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しなければならないとされている。
 平成21年度中に、国の行政機関が公表を行った基幹統計は、42件となっている(表6)。

(3)一般統計調査の結果の公表の状況
 法第23条では、一般統計調査の結果を作成したときは、特別な事情がある場合を除き、当該結果をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しなければならないとされている。
 平成21年度中に、法第23条に基づき国の行政機関が公表を行った一般統計調査は、165件となっている(表9)。

 なお、法第19条又は第21条第1項に基づき、平成21年度中に、総務大臣が承認した一般統計調査(136件、表7参照)のうち、特別の事情により公表を行わないとした一般統計調査は、11件であり、例えば、基幹統計調査の変更に先立ちその変更内容の妥当性を検証するための試験調査などが該当する。

 パオロ・マッツァリーノが問題の部分で情報源としているのは、巻末参考文献と照らし合わせてみると、「『読売新聞』2009年10月20日夕刊」が対応していると思われる。

 その年の10月というと会計検査院が以下の発表をしており、新聞はこのことを報じているようである*2。仮にそうであるなら、パオロ・マッツァリーノはこの記事だけを見て、しかし資料源は当たらずに引用してしまったのではないだろうか。

各府省所管の公益法人を契約相手方として国が発注している調査研究事業の状況 | 「各府省所管の公益法人に関する会計検査の結果について」 | 会計検査院
平成20年度 第30条の3の規定に基づく報告書

2 各府省所管の公益法人を契約相手方として国が発注している調査研究事業の状況
(5) 成果物の公表及び管理の状況
 ア 成果物の公表の状況
  (ア) 公表の状況

 上記成果物4,300件の公表の状況をみると、図表2−45のとおり、公表しているものは件数で1,714件(うちインターネットによる公表617件)、割合で39.9%(同14.3%)であり、一方、全く公表していないものは件数で2,586件、割合で60.1%となっている。

 これを契約内容別にみると、「競争的資金による研究」で公表しているものの割合が70.0%(同45.8%)と最も大きくなっており、成果物を公表する仕組みを制度的に組み込んでいるものが多いことによる。次いで、この割合が大きいのは「研究」の50.0%(同20.3%)となっている。

 また、自府省所管公益法人分の成果物についてみると、インターネットによる公表の割合は、対象契約全体の場合を若干下回っている。

 こういうことと、統計データを一緒にするのは、ずいぶんなことに思える。

 こんな風に疑っていると、「性格悪い」(p.18)と、パオロ・マッツァリーノに言われちゃうんだろうな。でも、パオロさんも私も、情報を発信する人の人柄や性格、好みが反映される(p.18)わけで。

 ま、私も、繰り言をくだらなくつづるのではなく、世の中をワクワクさせるよう努力します。

*1:東京脱力新聞

*2:すみません、裏を取っていません。