チョコレート・ファイター
タイ王国のアクション・ムービー。(原題、また、英語タイトルは、「チョコレート」)
タイ料理の辛さの中の旨みを感じるように、キツいシーンの連続の中のかわいらしさがいとおしくなるタイ映画。
かわいらしさ、というのは、ヒロイン ゼン(女優 ジージャー)のことを言いたいのではなく...でも可ー愛かったな...シーンのちょっとしたことに、クスリとしたり救いを感じたり。
殺陣シーンでヒロインの繰り出すアクションは、溜飲が下がる、の一語。
筋書きはかなり荒いけど、もともと映画撮ってるときにちゃんとした筋書きがあったわけではないのだろうから、どうだっていい。
製氷庫の中で繰り広げられる最初の殺陣シーン。氷を照らす照明がきれいで、印象深い。
その製氷庫の中で、ゼンは「あーぁーちょー」という奇声を発する。その奇声、その製氷庫での殺陣シーンだけで終わってしまう。以降の殺陣シーンでは、あそこまで奇声を発するようなことを、ゼンはしない。
その場の思いつきの演出で奇声を言わせ、後が続かず一貫性がないんだなぁ、と、その点について不満が残った。
ところが、いくつもの殺陣のひとつひとつには、過去の格闘映画に対するオマージュであり、「あーぁーちょー」は、怪鳥音を発するブルース・リーに対するオマージュに他ならない、と解説したのは、TBSラジオの宇多丸*1。
激しく納得した。
宇多丸によれば、劇中のシーンは、ジャッキー・チェンや、キル・ビル*2などに対するオマージュも見られた、という。
劇中、ゼンは啓示を受けるのであるが、その啓示がアニメで描かれているのは、キル・ビルに通じている。しびれた。*3
映画は、立ち上がりしばらくは陰々滅々感が長く続いてようやくアクションシーンが始まる。宇多丸は、そのことをシナリオ上の「溜め」だったのか、と言っていたが、私はそんな風には思わなかった。
ただ、もし、それを「溜め」と言うのなら、それは少林サッカーの「溜め」にも通じるかも知れない。ずーっと溜めていたものが一気に爆発する爽快感、少林サッカーは、面白かった。
ところで、チョコレート・ファイターが、タイで封切りされたのは昨年のことだけど、日本では今年の5月。
一方、先月来、日本人父親を捜す子ども、というのがタイでブームになっている*4。
そんな現地の、今の事情に思いを馳せながら、阿部寛が演じる任侠(にんきょう)味あふれるの日本人ヤクザに、喝采。
蛇足だが、宇多丸は、なまじっか頭がよく性格が几帳面なせいか、作品を論評する前の予習はかなり入念*5。しかし、さしもの宇多丸のザ・シネマ・ハスラーからは、その現地事情があることへの言及はなかった。
*1:ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフルのザ・シネマ・ハスラー
*4:タイで日本人父親捜し急増、「ケイゴ君」報道きっかけに(YOMIURI ONLINE6月8日)
*5:時に入念すぎるので、先週のザ・シネマ・ハスラーでの「重力ピエロ」は、伊坂幸太郎の原作本を知らずに純粋に映画だけを観た者にとっては余計なお節介が多かった。