データの罠―世論はこうしてつくられる(田村秀 集英社新書)

データの罠―世論はこうしてつくられる (集英社新書)

 私が好きではないのは、科学の名を語りながらウソをつくことや、統計データをもっともらしく誤用、あるいは、無理解のまま利用すること。

 統計に関するこの手の本いくつもあるのだが、最近実際に手に取ることともなかったので、今回読んでみた。

 この本の切り口について、目新しく思ったのは、(いや、当然なのだが)、ネット調査やテレゴングに対して警鐘を鳴らしていること。そして、もともとこの著者が役人出身ということもあるかもしれないが、いわゆる公務員叩きに対する論調の公正さについてデータの吟味を試みたり。

 類書の「社会調査のウソ」(谷岡一郎 文春新書)のツッコミの徹底ぶり*1に比べると、この本はやや食い足りない気もする。それでも、掘り下げが面白かったのは、国際的な英語能力試験 TOEFL における国別ランクにおいて、日本の点が「低い」とよくマスコミで引き合いに出されることについて、そもそも各国の受験者数がそれぞれ何人なのか、ということを洗い出していること。例えば、test and score data summary 2004-05という形で、情報が公開されていたとは知らなかった。

 この手の本の5年後、10年後は、どのような切り口になっていくのだろう。「ネット調査」という名の人気投票がますます幅をきかせ、その投票結果を無批判に引用するマスコミの流れはとどまることを知らないだろう。一方、(統計データは調査統計がすべてではないが、)統計調査環境が厳しくなる中、規範となるデータを得ることの困難さ。

 この本に出てくる「リテラシーダイジェスト」のエピソードは、Wikipedia英語版のLiterary Digestで見ることができる。Literary Digestは、現代におけるネット調査に対する警鐘としてもとらえられる。

*1:クセがあるが、クセが鼻につくことを補って余りあるほどの読み応えは、ある。