八ッ場ダム問題: 建設続行の決断は、マニフェスト原理主義 に対する Evidence Based Policy の勝利だったのか。

 国土交通大臣が、八ッ場ダム建設続行を決断し、民主党 前原誠司 政調会長はこれに激しく楯突いたが、結局、矛を収めた。

 前原政調会長マニフェスト原理主義が際立った報道だった。が、そういう整理でいいのだろうか。

 国土交通省は、説明を尽くしている努力をしているように見える。

 今回の大臣の決断は、国土交通省 関東地方整備局事業評価監視委員会、その11月29日開催の第6回資料が根拠である。

http://www.ktr.mlit.go.jp/shihon/shihon00000073.html

 かなりの資料であり、行政機関が役人と有識者を使って相当の根拠を積み上げたように見受けられる。

 国交省は、evidenceの一つに、科学者の国会、日本学術会議から得た「河川流出モデル・基本高水の検証に関する学術的な評価」までも援用している。

 日本学術会議の土木工学・建築学委員会 河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会 は、今年1月から12回にわたり会議を開き、9月、国交省の計算は妥当、という結論を出している。

国土交通省の新モデルによって計算された八斗島地点における
• 既往最大洪水流量の推定値:21,100m3/sの−0.2%〜+4.5%の範囲
• 200年超過確率洪水流量の推定値:22,200m3/s
が妥当であると判断する。

であった。(八ッ場ダム問題は洪水流量に尽きるわけではないが、学術会議に対して託されたのは、洪水流量だけである。)

 一方で、民主党は、どんな議論を積んでいるのだろうか。

 今朝の日経新聞によれば、

 民主党では国土交通部門会議の八ツ場問題分科会と部門会議が数回にわたって会合を開き、ダム建設の根拠となる利根川の最大流量の算出根拠が明確でないなどの見解をまとめ、政調役員会で政府との調整を前原氏と松崎哲久部門会議座長に一任した。

 前原氏は21日、藤村修官房長官に「党が指摘した疑問点が明確にならない限り、本体工事の着工は認められない」と申し入れた。

としており、八ツ場問題分科会が、台風の目のようである。

 けれども、この分科会は、どんな役割を果たしたのだろうか。ミスター年金、長妻 昭 厚労相同様に、manifestoを振りかざしただけではないだろうか。

 この疑いを晴らす材料は、民主党ウェブサイトには見当たらない。

 "八ッ場ダム問題分科会" site:.dpj.or.jp というキーワードで民主党サイトに絞り込んだgoogle検索してみると、結果は、八ッ場ダム問題分科会の開催案内が並ぶだけ。この分科会がどのようなメンバーで、誰が集まり、どんな資料で議論がされたのかは、不明である。

 検索結果でヒットした開催案内のリンクをたどっても、民主党サイトからページは削除されている。

 民主党は、その基本理念 http://www.dpj.or.jp/about/dpj/principles として

●私たちのめざすもの
第1に、透明・公平・公正なルールにもとづく社会をめざします

と言っているが、民主党八ッ場ダム問題分科会には透明さが感じられない。

 どうしようもない民主党のことは捨て置いて、話を政府、国土交通省に戻そう。

 国交省の議論の根拠の前提、出発点となる「論点の整理」 agenda setting はどうだったのだろう。

 「八ッ場あしたの会」という団体が反対の立場から問題提起をしている。

 "八ッ場あしたの会" site:.mlit.go.jp というキーワードで国交省サイトに絞って google検索かけると、出てくるのは、2008年3月、9月に 八ッ場ダム工事事務所 がヒットする。

 この八ッ場ダム工事事務所のQ&Aサイトは、八ッ場あしたの会などからの公開質問状に工事事務所が答えているが、ここでも木で鼻を括る対応ぶりが見られる。
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/faq/faq.htm

 その公開質問状に対する回答で掲載されているものは、2008年のものが最後である。言い換えると、民主党政権が発足した2009年以降、国土交通省は公開質問状に対する回答を載せることさえしなくなっている。過去3年、公開質問状が国土交通省に対して寄せられることがなかったとは考えづらいので、国土交通省の公開質問状に対する態度に変化があったとみるのが自然である。


<以下の記述は、まとめきれていません…。集めた材料の断片が散乱しており、考えを整理しきれていません。>
 八ッ場あしたの会のサイトを見ると、活動が綴られている。

 今年10月26日にも動きがあった。八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める科学者が、「八ッ場ダム検証の抜本的なやり直しを求める声明」を出したのだという。けれども、これでは遅すぎる。

2011年9月13日に関東地方整備局が示した八ッ場ダム検証結果(案)ならびに検証過程は、「予断なき検証」とは程遠く、科学性・客観性が欠如したものといわざるを得ない

というのであれば、論点が組み上げられる段階で撃つべきもの。

 検証が着手された時点、その過程の段階で、この会は、声明を出した呼びかけ科学者達は、どのように関わり合ってきたのだろうか。

 11月6〜8日の間に、「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」に対する関係住民の意見聴取の場の開催が開かれている。 ( http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/kyoku_00000428.html )、

 東地方整備局事業評価監視委員会の第6回が開かれた11月29日の資料を見ると、資料2-2-4「パブリックコメントや学識経験を有する者、関係住民より寄せられたご意見に対する検討主体の考え方について」 http://www.ktr.mlit.go.jp/shihon/shihon00000075.html で、逐次、応答が記されている。30ページ以上にも及ぶ資料。



 利害関係者と論点を浮き彫りにするのが 社会の木鐸 とされるマスコミであるが、八ッ場あしたの会は、「マスコミ報道の誤り」についても撃っている。結論は、造るか造らないか、の二項対立になりがち。マスコミが、国交大臣の決定を受けて各界の人から聴取したコメントは、感情的なものが多く、浅かった。報道の使命は、わかりやすいことだけではない。尺の長さ(放送時間、紙面スペース)の制約はあるだろうが、大型の公共工事、公金に対しては力点を考えてもらいたい。