八ッ場ダム建設に関する記録を隠滅していた国土交通省

 国交省は、evidenceの一つに、科学者の国会、日本学術会議に「河川流出モデル・基本高水の検証に関する学術的な評価」を依頼した。土木工学・建築学委員会 河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会 の結論は、

国土交通省の新モデルによって計算された八斗島地点における
• 既往最大洪水流量の推定値:21,100m3/sの−0.2%〜+4.5%の範囲
• 200年超過確率洪水流量の推定値:22,200m3/s
が妥当であると判断する。

であった。(八ッ場ダム問題は洪水流量に尽きるわけではないが、学術会議に対して託されたのは、洪水流量だけである。)

 この結論には、いくつかの留意事項、附帯意見が付いているが、evidence based policyについて興味深い指摘があるのを抜き書きしておく。赤字は筆者による。

作成の経緯:目的と方針
目的:

  • 既存の河川流出計算モデルの課題を整理し、新たに構築されているモデルを評価した。
  • 過去の雨量・洪水実績など、計画の前提となっているデータおよび基本高水等について妥当性を評価した。

問題点:現行手法に関しては科学的な追検証がほとんど不可能であった。

  • 背景・経緯の記録が不在であった。
  • 国土交通省から十分な説明が得られなかった。
  • 洪水時のハイドログラフの変更理由が不明であった。

※現行モデルのプログラムソースコードの提供を受け、新モデルと同等の評価を実施した。

3つの方針:
1) 貯留関数法の位置づけとその詳細を検討し、利用可能なデータを吟味した。
→新モデルの構築における留意事項を国土交通省に提示した。
2) 評価軸を設定し、新モデル(国土交通省が作成)を評価した。
3) 他モデルによる新モデルの物理的意味合いを検討し、結果を比較した。

留意事項

技術文書の作成

  • 社会基盤計画の基礎と位置づけられる基本高水の算定に当たって、河川管理者は算定の背景・経緯について十分な説明と、科学的な追検証の可能性を担保すべきである。
  • 河川管理者は観測資料を収集、品質管理、精査、アーカイブするとともに、その経緯を記した文書を整備することが必要である。

 資料の収集、品質管理、精査、アーカイブは、河川管理者にだけに課せられるものではなく、公文書管理に携わる公務員全員に課せられるもの。