ビッグデータ予想。実は、非常時に強みを発揮しうる。

 今朝の日経1面特集記事データ 21世紀の新資源 社会・生活が変わる :日本経済新聞で取り上げていたビッグデータ事例の一つ、日銀マンらによる旅行業者取扱額に関するナウキャストは、この論文によるもの。

(論文)景気判断における検索データの利用可能性 : 日本銀行 Bank of Japan

 日経が記事で引用している

分析の結果、検索データが、旅行取扱額のナウキャスティングに際し、固有の予測力を持っていることが明らかとなった。

という記述は、確かに論文の結語に現れているが、それだけを言うのは一面的。

 取り上げるなら、むしろ、こちらの方。

少なくとも現時点では、特に緊急時に検索データによるナウキャスティングを注視する、といった扱いが適当であると考えられる。景気判断のパフォーマンスを全体として向上させるためには、検索データは、その特徴を踏まえて、経済指標を補完するという位置付けで用いることが適当である

 この論文が面白いのは、旅行業者取扱額が一時的に急落しその後の回復した東日本大震災直後の緊急時と、平常時を比較して論じることができたこと。その時機をあえて取り込んだ分析をしたことにより、ビッグデータ分析は、むしろ非常時にこそ、下振れ・上振れする統計データの予測に役立つということを見い出した。

 旅行業者取扱額の対前期比は、平常時、ゼロ%の近傍を前後して推移しているのが近年の日本の経済であり、そのような状況では、旅行業者取扱額に関して日銀マンガ開発した分析モデルが予測する値の信頼区間がゼロ%を挟んで推移する。そして、実績値は、予測値の信頼区間の中に相当うまく収まってくれる。

 しかし、市場関係者にとっては、実績値が予測信頼区間に収まったところで「それがどうした?」である。彼らの真の関心は、旅行業者取扱額が対前期比でプラスになるかマイナスになるかという景気の方向性であり、平常時、ゼロをほぼ中心に推移する予測信頼区間など、意味がないのである。

 ところが、予測信頼区間の中に実績値がほぼ収まってくれる、という分析モデルの特性は、旅行業者取扱額が下振れ・上振れした非常時でも発揮される。

 先行きに大きな数値の変動が見込まれる非常時に、一定の幅を持って定量的な予測をしてくれる分析モデルは、この時に価値を発揮する。

 市場関係者にとって、ゼロから外れた領域で指し示される信頼区間は、市場取引に当たっての格好の判断材料となるのだ。後になって旅行業者取扱額の実績値が出てきても、その前に、市場は予測信頼区間を元にその確定材料は消化済み。

 こうなってくると、分析モデルによる予測は、異常時に、実績値に対して相当な重み、優位性を得ることとなる。このことを描いた日銀ペーパーは、とても興味深い。