マイナビニュースのお詫びから思う、統計リテラシー、メディアリテラシー
「お詫び」は、何のため?
マイナビニュースのお詫びのことを、私はよく理解できない。
ネット上のある元記事を、自社サイトに一度掲載し、それを削除したことについて「お詫び」を出している。自社サイトページから該当記事を削除するだけではなく、明示的に詫びを打っている。
いつもご愛読ありがとうございます。
5月16日に掲載されました「在特会デモで「死ね」などの暴言!ネットでは80.7%はやり過ぎとは思っていないことが判明!」は、「Net Research News」より提供された記事を転載したものであり、当サイトの主張、公式見解を含むものではございません。
記事について、当サイトにふさわしい内容ではないと判断し、当該記事は削除させていただきました。また、そのような記事を管理体制の不備からそのままサイト上に掲載してしまったことを深く反省し、お詫び申し上げます。
今回の一件を踏まえて、提供元サイトとは取引を停止し、過去に提供された記事もすべて削除する措置を取らせていただきます。また、編集部内における記事チェック体制を見直すことによって再発防止に努める所存でございます。
マイナビは、管理体制、チェック体制を見直すと言っているが、そんな体制などそもそも存在していたのだろうか?単に、「そのままサイト上に掲載」してきただけだろうに。転載元、情報ソースであったNet Research Newsの記事を自社サイトからすべて削除する、という極端な行動からは、マイナビニュースがこれまで転載記事を個々に管理、チェックしていたとは、思えない。
繰り返される、安易な情報編集
5年前、毎日デイリーニューズのWaiWaiの騒動を思い出した。
株式会社マイナビは、2011年社名変更前の名前が 株式会社 毎日コミュニケーションズであったことからわかるように、毎日新聞社のグループ会社と思われる。
2008年9月1日、毎日新聞社は、「毎日デイリーニューズ」刷新 改めておわびと決意の中で、以下のように述べている。
「WaiWai」は、国内で出版されていた雑誌などを了解を得ずに利用していました。明らかに事実とは思えない情報を英訳、転載し、一部については不適切な加筆もしていました。日本および日本人や特定の国、職業などについて誤解を生じさせる情報を長期間にわたって流し続けました。
報道機関としてあってはならない読者の信頼を裏切る行為であり、多くの方々にご迷惑をおかけしたことをあらためて、心よりおわびします。誠に申し訳ありませんでした。
毎日新聞社グループは、学習しないのだろうか?
当サイトの主張、公式見解を含むものではございません。
ポータルサイトが、転載内容について、このような自己弁護、自己正当化をすることは、見当外れである。マイナビニュースは、自分のことをジャーナリズム(「時事的な問題の報道・解説を行う組織や人の総体」(大辞林))と思い違いしているのであれば、おめでたい組織である。
マイナビニュースというポータルサイトが転載してきた記事内容は、転載元の主張、見解であると見なされて然るべきである。その記事内容をそのポータルサイト自身の主張、見解と思うだろうか。ウェブ閲覧者は、それくらいのことを判断できるくらいのメディアリテラシーは持ち合わせているだろう。
マイナビが問われるべきは、ポータルサイトとして、情報を収集、掲載する運営方針、センス、矜持である。*1
本当に問われるべきことは、マイナビが、ネットリサーチ専業のNet Research Newsのことを、情報ソースとして採用したことである。
ネットリサーチで安易で安価にひねくりだす 数 を おかず にする記事、そしてそのような記事しか生み出さないサイトに、どれだけの価値があると認識していたのだろうか。*2。
これまで記事転載をしてきたNet Research Newsの記事を、1日のうちにすべて削除、というマイナビの行為は、これまで取引関係を続けてきた会社に対して、「常識的」に考えれば、信頼関係を裏切る相当非礼なものである。
もし、マイナビによるNet Research Newsの打ち切りが、ネット投票記事専業サイトを転載してきたという自らの愚を理解したことによるものであれば、この突然の振る舞いは理解できるかもしれない。
実際には、マイナビのお詫びが言う再発防止策は、「編集部内における記事チェック体制を見直すこと」だそうである。体制のたががゆるめば、早晩、3度目のお詫びが出てくるだろう。
ポータルサイトを運営することの意味と、メディアリテラシーに対する認識。
マイナビのお詫び文からは、読み取れない。
livedoor、ネットリサーチニュースの心根(こころね)
マイナビから1日で取引関係を打ち切られてしまった Net Research News。ここは、いったいどんなところだろうか。
メディア・エージェンシー有限責任事業組合が、株式会社メディアクリエイトから運営委託を受けて、ネットリサーチを行った結果をlivedoor blogに掲載をしている
ものである。
ネットリサーチニュースが行っているここ数日のネットリサーチを「最新情報」(5月18日時点)から拾ってみる。
実は、マイナビニュースがお詫びを出した後でも、ネットリサーチニュースのサイトからも5月16日付け記事「在特会デモで「死ね」などの暴言!ネットでは80.7%はやり過ぎとは思っていないことが判明!」を見ることはできた(記録は、こちらを参照 2013-05-18 - akutsu-koumiの日記。)。けれども、その後、この5月16日付け記事は、消されてしまった。
このネットリサーチニュースの一次情報が消された後のにもかかわらず、ライブドアは、その後も livedoor newsの中でこの記事を保持し続けていた。http://news.livedoor.com/article/detail/7679642/。
しかし、これも、その後ページは削除された。
ジャーナリズムは、マイナビを笑えるのか?
調査を実施して、それを記事や番組で使う。対面によらずとも、電話、FAX、ネットといった通信ができるようになった。
取材よりも手をかけずに情報生成をできる方法は、大手商業メディアでも、使っていないところはない。そのような記事、番組は、時代の関心、空気感を伝えるために、意義はあるだろう。
しかし、読者参加型、視聴者参加型のアンケート、投票に参加するような人は、基本的に、ものを言いたい人である。言いたいことを言う人の自己満足のインセンティブに依存しているアンケート、調査を過大に評価することは、おかしい。*3
2005年8月、産経新聞は、共同通信の配信記事を元に、こんな見出しの記事を打った。日本経済新聞も、同旨の記事を書いた。マイナビのことを、笑えるだろうか。
*1:老舗のYahoo!。Yahoo!ニュースの運営姿勢は、新書1冊を著せるくらいのものである。
*2:日本全体、世論を代表する形で無作為抽出が行われているわけではない。また、ネット調査の標本には、高学歴、労働時間が短い、不安・不満が強いといった偏りが見られる、と、労働政策研究・研修機構は、8年前に指摘している id:hottokei:20050208 。
*3:標本理論に基づく無作為抽出調査、という統計理論に基づく手法を用いる調査方法とは区別されるべきものであることは、言うまでもない。