日経新聞の、「引用の仕方」の無神経さ

 日経が記事の情報源を、おざなりにしていることが目に付く。

 厚生労働省 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表した将来
推計人口について報じた、1月30日記事「95年生まれ世代、5人に1人が生涯未婚 人口推計」。それに付属するグラフ。

 ここで「実績」って、何ですか?

 国勢調査という情報源を「実績」とわざわざ書き換える理由が、理解できない。というよりも、はっきり言えば、無神経である。

 記事の主題は将来人口推計であり、グラフに「推計」とあるものは「将来人口推計」であることは、読者にとって容易に察しが付く。

 「実績」という言葉を用いた意図は、「推計」に対比したものであろう。しかし、「実績」って何?

 もちろん、実績の情報源は、総務省統計局「国勢調査」であろう。しかし、記事輔分、グラフには国勢調査の文字は見当たらない*1。単に「実績」としか、ない。

 この記事を書いた”賢明な日経読者であれば、国勢調査くらい「承知の介」だ”とでも思っているのだろうか。

 いや、何もわかっていないのだろう。

 情報源を明確にして記事を書く「出典」という基本的な作法を。

 何もわかっていない、と言えば、発言の文脈を無視した切り取り方で、誤解を招くような形で引用するということは、記者がやってはいけないことである。

 ところが。

 人物に対して、取材する代わりに、ソーシャルメディアからの引用で記事を書く、という twitter pickup という記事も、最近の日経は行っている。


蓮舫民主党参院議員)@renho_sha
昨日、働き手が50年後に半減との少子高齢化、人口減少の数値が発表されましたが、数字からは見えない家族の在り方を考えさせられます。 (1月31日10:36AM)

 これを見て、私は蓮舫のことを、こんな風に誤解してしまった。

 蓮舫は、統計を見ようともせず、家族論を思い込みで語り出したいのかい。

 最新の2010年国勢調査を見れば、家族の形で、今、最大勢力になっているのは一人暮らしであり、しかも、その内実は、「若い独身貴族」というイメージで済ませてしまってよいものではなく、独居老人が増大している、という社会的問題がそこにあるのに。

 ところが、蓮舫の元twitterを確認したら、実はこうであった。

友人の斎藤由香さんから、同じ雑誌に出てますね、とのメール。文藝春秋special『家族を守る』*2。私の拙文はともかく、人生の先輩方の家族観は読み応え。昨日、働き手が50年後に半減との少子高齢化、人口減少の数値が発表されましたが、数字からは見えない家族の在り方を考えさせられます。

2012年1月31日 - 10:36webから

 蓮舫は、数字よりも、人生の先輩の方々による文章から立ち上がるもののことを言いたかったのである。

 日経による、蓮舫のtwitの引用の仕方は失礼である。この程度の twitter pickup なんて、存在することが迷惑にまでなってしまう。

 こんなものよりも、伝えるべきこと、論じるべきことを、を新聞は持っていないのか。

*1:国勢調査は、将来推計人口を計算する際の基礎に使われている情報。その意味でも、記事に国勢調査という言葉があっても不自然ではないし、むしろ明記さえれてしかるべきだったのだが。

*2:文藝春秋SPECIAL 2012年季刊春号「家族を守る」

”亡きパパに贈る娘のことば” コーナー

北杜夫を支えた母のユーモア

斎藤由香