日経、いよいよネット調査を選挙報道に導入

 ネット調査については当小欄にて継続的にウォッチしてきて、その問題性について考えてきている。

 このことについては、多方面で繰り返し指摘がされており、例えば最近では、JILの本多則惠氏は、次のように端的にまとめてられている。

「調査モニター」全般に共通する課題

募集方法、回答方法にかかわらず、「モニターになること」そのものから回答者にある種の偏りが生ずる。*1

 私としてはそのような立場ではあるものの、ネット調査方法とその利用上の注意について新聞紙面上で多くの文字数を割き、しかも電話調査と対比させてまで標本のフェイス事項を紹介したという点で画期的だったのが9月3日日経朝刊。

 そのことに素直な気持ちで敬意を表するとともに、恐れながら、あえて長文引用させていただきます。

 日本経済新聞社は八月三十一日から九月二日に「衆院選ネット調査」を実施し、十一日の投票日に向けた有権者の意識の変化を探った。…調査は日経リサーチが全国の調査協力モニターの中から成人男女二千人を無作為抽出し、インターネット上の専用ページで回答してもらう方式で実施した。有効回答率は三九・六%
(第1面)

意識変化を連続調査
 日本経済新聞社の「衆院選ネット調査」は、日経リサーチが保有するインターネット調査の全国の協力モニター約七万人から男女別、年齢階層別に成人二千人を無作為抽出した。対象者に電子メールを出して協力を依頼し、指定したウェブ画面上の質問を見て回答してもらう方法をとった。
 第一回調査は八月二十四日−二十六日。第二回は衆院選公示直後の八月三十一日−九月二日に実施し、今後も調査を続ける。毎回、同じモニターに回答してもらう方式を採用した。
 ネット調査は回答者に偏りがあり、全国の有権者の縮図といえるデータ標本とは必ずしもいえない。対象者の平均年齢は四十七歳で、通常の電話世論調査と比べ五歳程度若い。性別も男性五四%、女性四六%と電話調査と逆の傾向を示した。都市部が多いのも特徴で、首都圏の比率が四〇%と、電話調査の二五%程度よりかなり高い。ただ衆院選への有権者の関心の高さや無党派層の投票行動の変化などを連続的に把握するのには適した面がある。*2
 内閣支持率政党支持率、全国各地の選挙情勢などに関しては、これまで通り電話調査などを通じて全体の動向を把握していく。
(第3面)

 ところが、である。

 第3回衆院選ネット調査結果を報じる9月9日日経朝刊では、調査方法に関する説明が、ごっそり抜け落ちてしまった。

 タイトルの「ネット調査」から、インターネット調査であることがわかるが、日経リサーチ社、2000人モニターの言及がない。

 致命的なのは、回収率に関する言及がないのである。

 3日の紙面では、紹介するデータは、ほとんどと言っていいくらい、第1回と第2回を対比して変化について記事にしていた。

 しかし、9日では、必ずしもそうなってはいない。郵政改革に関する意見や、投票で重視する政策に関する調査事項は、第3回調査の数字しか示していない。読者としては自ら以前の回の調査と比較する手段は残されているものの、新聞の良心としては、やはり記事自身が調査結果の変化について記述するよう努めるべきではないのか。

 どうしようもないのは、衆院選に行くか、という調査事項である。

 これは、3日記事の第1,2回調査結果には書いていない調査事項であり、第3回調査との変化を評価することができない。日経が3日で述べた調査結果利用上の留意を、自ら放棄している。


 産経新聞特集号オピニオン面YES?NO?私も言いたい 9月9日投票行動から。

 「投票に行くか?」の質問には、99%がYESと答え、関心の高さを証明しました。

 関心が高いのは誰のことを指して述べているのでしょうか。無前提に「関心の高さ」と解説するその態度、ネット調査認知症と診断します。病(やまい)膏肓(こうこう)に入(い)る。

*1:http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/017.html の再下段

労働政策研究報告書№17(2005)
『インターネット調査は社会調査に利用できるか−実験調査による検証結果−』≪関連資料≫
−インターネット調査の本質的課題− 「モニター回答者」とは何か?
独立行政法人労働政策研究・研修機構 本多則惠 2005-8-25

*2:ネット調査に「変化連続把握に適した面」があるとは一義的にはおよそ思えないが、他の調査手段に比べて1度実施するコストが安いということから、繰り返し調査を実施しても予算高騰をある程度抑えられる、という面がある、と理解する。