元号の社会的コスト

 本日の西日本新聞ウェブ版から。

宮崎県がパスポート発行ミス 20代女性を「80代」に[宮崎県]

2014年07月03日(最終更新 2014年07月03日 20時40分)

 宮崎県は3日、宮崎市の20代女性が旅券(パスポート)を申請した際、「平成」とすべきだった生年月日の年号を誤って「昭和」と記載したのを見落とし、実際より63歳年上となる生年月日のまま旅券を交付したと発表した。旅券上は80代となるため、女性は渡航先の台湾の空港で誤りを指摘され、入国を拒否された。県は「確認が不十分だった」として女性に謝罪した。

 県によると、女性は5月下旬、宮崎パスポートセンター(同市)に新規旅券を申請。平成生まれだが、申請書類の生年月日欄の「昭和」に印を付けて提出したため、昭和初期生まれの西暦で旅券が交付された。

 申請、交付には女性本人が訪れ、戸籍抄本や免許証も提出したが、県の担当者は誤記を見落とし、女性も誤りに気付かなかった。

 旅券の申請・発行は外務省からの法定受託事務。県は「外務省に申請書類の改善を求めていく」としている。

=2014/07/03 西日本新聞

 同じ事案を報じた朝日新聞デジタル
によれば、

 女性は6月に友人と台湾に行ったが審査で入境を拒否され、空港で一晩過ごし帰国した。旅行会社から県に連絡があり、発覚した。

 元号の社会的コストは、海を渡ったっていうことか。
 これは、氷山の一角。元号誤認による社会的混乱 - 繰り言

 「県は『外務省に申請書類の改善を求めていく』と記事にはあるが、宮崎県は具体的にどうすべき、と思っているのだろうか。情報源の宮崎県のウェブをたどってみるが、

県政記者クラブに対して県が発表した事項の概要を掲載します。
概要のみの掲載となりますので、別紙・詳細等は掲載しておりません。
お問い合わせは、それぞれの担当課までお願いします。
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 宮崎県ウェブサイトはこの点、情報源としての価値、なし。

 で、問題の発給申請書。宮崎県ウェブサイトにはその申請書様式が見当たらないので、ここでは便宜的に東京都ウェブサイトから生年月日欄の周辺を抜き出す。

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 「生年月日」欄の年は、明治・大正・昭和・平成の元号選択のみ。西暦の選択がない。

 その一方で、「最後に発給を受けた旅券」の「発行年月日」は「西暦で記入」。和暦の選択がない。

 この2つの点から、この様式の一貫性が意味不明である。*1

 さらに、この発給申請書には、「この申請書類を提出する日の満年齢」欄というものも、ある。

 この「満年齢」欄を、「生年月日」欄と係官が記入する「受理年月日」欄とを合わせ見れば、論理チェックは可能*2。しかし、この「満年齢」欄は、一文字ごとのマス目化がされていない。すなわち、光学的文字読取装置(OCR)で吸い上げるつもりがない、ということである。

 この事実は、使うつもりのない満年齢欄がこの申請書類に思いつきで追加しているという証拠であり、事務負担の過剰さに対して無頓着な役人の態度がここから透けて見て取れる。

 発給申請書の様式設計が想定する書類処理事務フローは、落第もの。

 旅券発給を申請する者に対しては、申請書の記入だけでなく、戸籍抄本を提出させていたり、運転免許証に提示を求めていたりしているが、旅券に記される生年月日の一貫性、無矛盾性チェックにとって、何の役に立っていない。

*1:国勢調査ならは、西暦でも元号でもどちらでも生年月を書くことができる。

*2:書類に記入を求められる人たちは正しく(まじめに)書いてくれる、という前提は、取り下げておいた方がよい。