タコツボ・スペースシャトル。有人宇宙計画の成果は、しょせん、有人宇宙開発。

 スペースシャトル計画が終了する。

 莫大な費用を投じ、過酷な放射線から身体を防護しながら、人を宇宙に送り出した結果は、何があったのだろうか。

 今朝の日経サイエンス面は、日本人初の女性宇宙飛行士としてシャトルに2度乗った向井千秋氏のインタビュー。

 向井氏は、有人宇宙開発の本質をいみじくも言い当てている。

 宇宙に行って分かったのは、地球上では当たり前だと思っていたことが広い宇宙では特殊だということ。どの天体を見ても地球ほどちょうどいい重力があり、空気に恵まれた星はない。私は凡人だから、宇宙飛行しなくてはそれが分からなかった。

(中略)

 なぜ人は宇宙に行き、生活圏を広げる必要があるのか。そういった根本的な考えや、将来目指す目的地を日本は示していない。

(中略)

 宇宙医学の研究や国際会議の調整などで関与している。…この分野は各国ともスタート地点が同じ。日本の優秀な研究者が取り組めば、月や火星に人が行くときに日本のデータが必要になるほどの研究水準まで高められると信じている

(向井氏)

 有人宇宙開発は、結局のところ、有人宇宙開発のことを自己目的化してるだけじゃないだろうか。

 投じられた莫大な費用は、何のため?

  • 自国の政治家に対して、宇宙ビデオ会議で、彼ら・彼女らの自己顕示欲を満足させる
  • 信販売産業を、「NASAも」「宇宙飛行士も」の宣伝文句により、振興させる(そういや、「JAXAも」というのは、聞いたことがない。)
  • ジャーナリズムにとって、宇宙飛行士というヒロイン、ヒーローは、視聴率、部数の促進してくれる(今朝の日経インタビュー記事は、まさにその一例。)(だから、ジャーナリズムは、一部を除いて、批判眼に乏しい。)

 日本には、無人宇宙機はやぶさこうのとりがある。これを極めていくことを、私は支持する。

 こうのとりを人が乗れる宇宙船に改造することには、反対する。身体を宇宙線から守るための修繕には、途方もないコストがかかるし、それをしたところで人を乗せることだけで終わってしまう。

 1枚の名刺を持ったときに『紙がこれほど重いとは』と感激した。

 名刺の重さをもう一度感じてみたい。2回目の飛行ではそんなことを願っていた。

(向井氏)

 そんなことをするためなら、わざわざ地球周回軌道に人を打ち上げる必要はない。ね、ホーキング博士さんよ。

Hawking on plane (AP)

 米国物理学会ワシントン事務所の開設者による科学コラムWhat's New by Bob Parkは7月1日号で、Dan Charlesの言葉を紹介している。

It indulged humankind's impractical space fantasies at a cost that retarded genuine progress.

 人類は、本当の進歩を遅らせてしまう散財をして、役に立つことのない宇宙への幻想に興じた。

 What's Newは、それでも、スペースシャトルが科学に果たした役割として、衛星軌道上で故障してしまったハッブル宇宙望遠鏡の修理を挙げる。

 そして、同時に、What's Newは、そんなことにお金をかけるなら、新しい宇宙望遠鏡を打ち上げた方が安くついただろう、と言っている。