ホメオパシーが論じられる際の 中立性、公平性 に注目
ホメオパシー論争が、熱い。
日本学術会議の会長がホメオパシーに関して発表した談話に対して、日本医師会*1、日本薬剤師会*2、日本医学会*3、日本助産師会*4から賛意が寄せられる中、日本統合医療学会は、その日本学術会議に対して、公開討論会の開催を呼びかけるという。
ホメオパシーに対するの日本統合医療学会理事長の見解によれば、(筆者により、一部着色、機種依存文字(丸付き数字)を変換。)
- アメリカ国立衛生研究所(NIH)では、ホメオパシーは代替医療の分野として、調査研究の対象となっており、当学会でも同意見である。
- 諸外国に於いては、ホメオパシーの有効性の報告が多くあり、ホメオパシーは研究の対象であると考えられている。
- 今回、問題となった「ホメオパシーの療法」は、助産師の職権を逸脱した医療行為であり、しかも、独断で正当な医療を排除したとすれば、それは正に犯罪行為であり、処罰されるべきである。今後、この様な問題の発生を防止する為、国家は厳しい規制を考える必要がある。
- 医療としては、科学的エビデンスのある近代西洋医学を中心に進めるべきであり、代替医療は、それを補うものとして利用すべきである*5。がんの末期や難病など、現在の近代西洋医学が治療不可能なものに対しては、患者とのコンセンサスの下に代替医療の利用を検討する必要があると考えている。
最後まで患者を見捨てない患者中心の医療が統合医療である。*6- 各種の代替医療について、安全性、有効性、さらに経済性の3点について調査研究する必要があり、適切なもの*7は利用を推進し、不適切なものについては、国家としてガイドラインを設け、規制すべきである。
- 代替医療には現時点で安全かつ有効で利用すべきものが多く存在する。今回のような不適切なホメオパシーの団体の不適切な使用の事件により、安全で有効な代替医療*8が否定されることがないようにしたい。
一般社団法人 日本統合医療学会
学術会議会長談話には、権威のある論文(査読付き)が引用されている。しかるに、この理事長見解の日本統合医療学会が多くあると主張する「ホメオパシーの有効生の報告」は、1つたりとも出典を明らかにしていない。
日本統合医療学会は、学会という名称を持ち、一般社団法人という法人格を有していることになっているが、いったい、この学会の程度は、どんなものなのだろうか。
この学会の名前は、日本学術会議協力学術研究団体のリストには見あたらない(関連機関・団体リンク集 − 日本学術会議協力学術研究団体一覧(ナ行))。
では一方の、日本学術会議とは、そもそも何者なのだろうか。
日本ホメオパシー医学協会は、学術会議のことを、こう評している。
『日本学術会議』という機関は、政府から独立した特別の機関であるため、本会議自体に行政・立法・司法の三大権限を有していません。つまり、今回の「ホメオパシー」についての会長談話の公表内容は、日本学術会議という一機関の見解であり、政府の見解ではありません。
日本学術会議の声明文に対するJPHMAの見解(8月28日)
日本学術会議の見解は、たしかに、政府の見解というものではない。これは、日本の科学者の代表機関による見解である。
日本学術会議は、名前に カタカナ こそないものの、この組織こそ言うなれば、日本のアカデミーである*9。日本学術会議に対応する組織は、アメリカでいえば全米科学アカデミー、イギリスでは王立科学協会。黒田玲子は、学術会議会員の立場で国際科学会議(ICSU)の副会長を務めている。
このような日本学術会議に対して、日本統合医療学会が呼びかける公開討論会。
公開討論を呼びかけるのにその根拠、理屈を公開しない(できない)日本統合医療学会の姿勢は、ただの言いがかりとされても仕方ないのだろう。それでも、「門前払い扱いをするようでは、学術会議は根拠薄弱」と言って、日本統合医療学会は挑発を仕掛けてくるだろうか。
さて、問題は、この構図を、マスコミがどう論じるかである。この場合、留意すべき、中立性、公平性は、あるだろうか。
ニセ科学に関する論争で繰り返されるパターンとして、確信犯はここで、論争を「相対化」し「客観的なもの」とする戦術(へりくつ)を駆使することにより、自己の存在が正当化された足場を構築するという魔法を仕掛けてくる。
この魔法にかかると、論争相手がどんなにバカバカしい者であっても、マスコミは、「中立」、「公平」な報道を行うこととなり、論争は、不毛な水掛け論に転じてしまう。
今後、ホメオパシーがマスコミで論じられる際の 中立性、公平性 に、注目。
以上のように述べてきた一方で、ホメオパシー信奉者を撲滅するようなことを自己目的化することに陥ることのないよう、自戒が必要。
アメブロ「てんかん(癲癇)と生きる」の「彼らが反論をやめたとき。ホメオパシーのこれから。」の視点を、銘記しておかなければならない。大切なことは、ホメオパシー信奉者との間で、科学的に、人間的に、コミュニケーションを取ることである。
ホメオパシーのことを、魔女狩り的に(あるいは、オウム真理教的に)一方的にバッシングすることは、真の問題解決には結びつかない。
これから、慎重な議論が求められる。
僕がニセ科学の問題で「自明」と表現するのはたぶんホメオパシーと水伝*10くらいで、それはむしろ絶望感の表明であることをわかってもらえるとうれしい
*5:筆者注 「代替医療には科学的エビデンスは、存在しないし、不要。」という意味だろうか?
*6:筆者注 人間は、100%の確率で、死にます。終末期の患者を「見捨てない」ためにすべきことは、身近な人との貴重な時間を有効に使ってもらうための緩和医療ではないのか。
*7:筆者注 適切なものは、通常の医療として利用されていくことになります。代替医療という呼び名は不要。
*8:筆者注 有効なホメオパシーなどないし、それが適用される局面は安全で健全なシーンであるとは思えない。
*9:日本学士院(The Japan Academy)という組織もあるが、これは学術上功績顕著な科学者を優遇(具体的には、日本学士院法第九条に基づき、年金を支給)する機関。日本学士院は、日本学術会議のように日本の学会を代表しているわけではない。