長野県知事選に関する調査方法検証記事 - 電話調査・郵送調査・ネット調査

 調査方法に関する画期的な調査報道記事である。10月5日朝刊の朝日新聞「ネット調査 信頼できるか」(世論調査部・松田英二)

 記事グラフ1の数字

「投票日前の投票予定と実際の投票先」(調査の数字は候補者名を答えた人のみの比率))

調査方法 回収率(%) 回答数 投票結果
比(%) 村井 田中
郵送調査 選挙人名簿無作為2段抽出 74 1,106 投票日前 52 48
投票日後 57 43
ネット調査 ネットマイル 登録モニターの20歳以上の全登録者 不明 1,652 投票日前 34 66
投票日後 42 58
インテージインタラクティブ 登録モニターのうち、男20-40代・女20-30代は一定数ランダム、その他世代は全数 不明 2,229 投票日前 34 66
投票日後 39 61
電話調査 RDD無作為3段抽出 70 1,218 投票日前 52 48
選  挙 選挙人名簿
(すなわち"全数調査"
(参考)投票率
65.98
(参考)投票者数
1,157,782
結果 53 47
 「(参考)」は、記事にはなかった数字を、筆者が外部から参照したものである。

 村井氏が勝った選挙結果に対して、RDD、郵便調査はそれにほぼ同じ結果を出し、ネット調査は逆に田中氏が勝っている。

 記事グラフ2の数字(筆者がグラフから読みとった数字)

「郵送、ネット両調査の回答構成率」(比率は小数第1位で四捨五入。1%に満たないものは0とした)

20代 30代 40代 50代 60代 70代
以上
郵送調査 5 7 7 9 8 12
4 8 9 10 9 11
(参考)「ネットを使っている」と答えた人 10 11 11 12 5 3
7 13 11 9 3 2
ネット調査 ネットマイル 8 25 18 7 1 0
9 18 9 2 0 0
インテージインタラクティブ 12 15 15 9 2 0
14 17 12 3 0 0
(参考)衆院選(2003.11.9)・全国値 ※ 4 6 8 11 10 9
5 7 8 11 10 11

 「(参考)」は、記事にはなかった数字を、筆者が外部から参照したものである。

 電話調査に関する回答構成率は、記事掲載なし。

※ 「全国 53,386投票区の中から標準的な投票率を示す投票区を各都道府県の市区町村から原則として1投票区ずつ、計151投票区について抽出し、その年齢別投票率の平均的傾向を求めたものです。」(http://www.akaruisenkyo.or.jp/various/09/index.html*1

ネットマイルリサーチ モニターの属性 年齢棒グラフ

 ネット調査の年齢階級別比は若年層が厚く、電話調査の比は高年齢層が厚く、老若逆転になっている。電話調査の比は、参考に掲げた衆院選標本調査における比に近い。

 ネット調査の日が若年層に厚いのは、もともと、ネット調査モニターが若年層に偏っているからである。

 そのネットマイルの調査対象は「登録モニターの全世代全数」というが、今回のネットマイル調査の回答者を年齢階級別分布(右の棒グラフ)を見ると、両者とも第1位は30歳代がだが、第2位は調査対象が20歳代であったのに、回答者は男性の場合40歳代となっている。政治参加意識・意欲の世代による違いの表れに他ならない。

 記事では、ネット調査が投票結果や他の調査との違いの理由を

一つは対象者が有権者の縮図になっているかどうか、というサンプルの代表性の問題。もう一つは、調査に答えたい人ばかりを集めていないかという問題だ。

と指摘している。

 調査に答えたい人ばかり集めているかどうかは、回収率を見ることで判断できるが、この記事ではネット調査の回収率を不問にしている。

 なお、ネットマイルでは「20歳以上の全登録者」を調査対象としているので、約300万口座*2×(100%-3%)=約290万口座の内、回答があったのは1,652だけである。

 政治参加意欲以前に、この調査に対する協力意欲を疑わせる0.1%にも満たない回収率。この記事の元になったネット調査は、いくらネット調査であっても、どれだけ公正に実施された調査なのか、少々疑念も。

 記事は、ミシガン大学社会調査研究所Mick Couper氏や、元JILの本多則惠氏のコメントをとっている。

Couper氏:
 米国では市場調査でネットがよく使われている。費用が少なくてすみ、早いのと、サンプルの代表性がそれほど重要ではないからだ。社会調査に関わる人たちは、ネットは従来の手法の問題点を補ってくれると期待するが、重要な調査がネット調査に置き換わると信じている人はほとんどいない。*3

本多氏:
 ネットを利用する場合には二つのことに注意してほしい。一つは、登録モニターの回答には特有の癖があること。全般的に不安、不満、不公平感が高めで、お金やモノを得ることへの欲求もやや強い*4。二つめは、ネット未利用者がいること。そのため、低所得や低学歴、高齢者など、ネット利用者が少ない層の声を集められなかったり過小評価したりする恐れがある。
 いずれにしても欠点のない調査はない。ネット調査に限らず、調査の限界を踏まえてその結果を利用すべきだ。

*1:http://www.pref.nagano.jp/senkyo/にこのような統計がないため、便宜的に明推協のものをここで引用。

*2:ネットマイルリサーチ モニターについて」によると、10月2日現在3,225,682会員口座あるという。

*3:米国で調査コンサルタントを営む人から聞いた話であるが、かの国では、marketing researchとstatistical surveyとを別物である区別することが社会的了解事項になっているようである。その意識があれば、ネット調査のことを新聞社が無邪気に記事にするようなことなどありえない。

*4:d:id:hottokei:20050208