視聴率の一ポイント差に一喜一憂することの「愚」

 id:hottokei:20060318に続き、藤平芳紀氏の日経夕刊ラテ欄コラム「データTV」から。今回は、「資料率の高低 『差がある』と言える範囲は」と題して、視聴率の差に意味があるのかどうか、有意差、を平易に解説している。

数値の上では違いがあっても、サンプル数が少ないと視聴率に相当な開きがないかぎり、どちらが高いとは言えないのだ。視聴率が一ポイント上がった、下がったと一喜一憂することの「愚」を、おわかりいただけるだろうか。

 このコラムでは、この春の番組改編を受けて初回視聴率が高かった(とされる)新ドラマを順に7本並べた表を示した上で、以下のように論を張っている。

六〇〇サンプルで調査している関東地区の結果 … 視聴率の差が最低でも四・五ポイント以上ないと、統計的には有意差がないことになる。

たとえば「クロサギ」の視聴率は上位の「トップキャスター」よりも四・三ポイント低く、下位の「警視庁捜査一課9係」より四・一ポイント高い。しかし、統計的には、「クロサギ」は二つの番組とは視聴率に有意差はない。

 ところで、ここで藤平氏は、「互いに独立な%の差の検定」という手法を用いている。

 これは、ビデオリサーチ視聴率コーナーで紹介されている標本誤差とは異なり*1統計学の教科書にある「2標本の検定」→「比率の差の検定」の応用*2である。

 このコラムで「互いに独立な%の差の検定」が持ち出しているのは、少々奇異に思える。

 なぜなら、ビデオリサーチ視聴率調査は、標本を毎月少しずつ入れ替えていくローテーションサンプリングを取っており*3、このコラムで論じている春の新ドラマ初回視聴率の調査対象は2006年4月期の同一標本を使っていることになるので、2標本検定の式を用いる必要はないはずである。

*1:視聴率から市場調査を考える - MM21 [ITmedia オルタナティブ・ブログ]では、「引用した新聞記事では、ビデオリサーチの数字よりも大きい標本誤差を適用しているので、もしかしたら信頼度99%で見ている(つまり、より厳格に見ている)のかもしれません。」と指摘しているが、異なるのは信頼度ではなく、むしろ、適用している検定手法。

*2: 神戸大学大西ゼミレジュメから検定公式を拝借すると、標本の大きさl = m = 600、パーセント p = q = 20%、α(信頼水準)=95%(有意水準=5%)と置けば、D=4.526となり、コラムにある4.5ポイントを導き出せる。

 神戸大学工学部建設学科大西研究室 西尾サブゼミ「アンケート調査・統計学の基礎」アンケート調査の進め方 PDFファイルvol.3-3 21ページ「統計的仮説検定の計算公式」の「互いに独立なパーセントの差の検定」を適用。19ページに例題あり。

*3:ビデオリサーチhttp://www.videor.co.jp/rating/wh/06.htmによると

関東・関西・名古屋地区の例
調査対象世帯数が600なので、毎月25世帯(600÷24ヶ月)を入れ替え、2年間ですべての対象世帯が入れ替わるようにしています。