統計調査の重要性 カリフォルニア州2003年住民投票

 日経17-19日朝刊の連載「顔なき社会」。18日分はこの一節で締めくくっている。

 個人情報保護法を機にプライバシーへの配慮が社会的に高まったことを評価する声は多い。その反面、個人情報の過剰な防衛意識は、国の将来に関わる統計調査や学術調査を難しくしている。個人情報が持つ社会的な有用性をないがしろにすれば、国の基盤を揺るがしかねない。

 記事では、例として、国勢調査労働力調査(いずれも総務省統計局)、世論調査内閣府広報室)、がん登録(厚生労働省国立がんセンター)が列挙されている。

 海外ではがん登録の重要性が見直されている。一九七〇年代後半に個人データの乱用防止の法律ができたドイツでは、一部の週で登録に本人同意が必要となり登録数が激減、制度が崩壊した。しかし、八六年のチェルノブイリ原発事故でがん発生の状況を詳しく調べる必要が認知され、九五年に連邦政府は改めてがん登録をすべての州に指示した。プライバシーとの比較考量の結果、医学調査に軍配を挙げたのだ。

 疫学調査の有用性について、プライバシーの観点だけでなく、人種差別の観点で注目を浴びたのが、2003年10月7日米国カリフォルニア州の州特別選挙、提案第54号「人種、民族、肌の色、出身国による分類」である。

 これは、以下のことについて、住民投票が行われたものである。

 住民投票について、公式投票者情報ガイドの日本語版からを引いてみる。

提案54 人種、民族、肌の色、出身国による分類

州民発案による州憲法修正案

  • 州および地方政府が、人種、民族、肌の色、出身国により、公教育、下請け業務、雇用などに関し、入学希望者、請負業者、職員を分類することを禁止するよう州憲法を修正する。性別による分類は禁止しない。
  • 州議会が州の利益となると判断し議会の三分の二の同意と知事の承認を得た場合を除き、この禁止の対象には政府の他の業務に従事する職員も含めるものとする。
  • 「分類」とは、特定の人々や個人データを分ける、区別する、まとめることと定義される。以下はその例である。医学データ、法執行機関による容疑者描写、囚人や私服刑事の配置、連邦資金維持のための措置など。

立法アナリストによる州および地方政府に与える最終的な財政的影響の要旨:

  • 州および地方政府への著しい財政的影響はない。

 これを規制影響分析したものが、これ。

立法アナリストによる分析

プログラムに関する影響
 大部分のプログラムに対し、現在収集されているデータは今後も継続される。
 州および地方政府によって収集されている人種に関するデータのほとんどは、本法案の免除規定のもとで今後も継続することができる。これらのデータの大部分は、現在連邦政府によって義務付けられているものである。

プログラムによっては、データ収集が制限されるものもある。

 州および地方政府機関では、連邦政府による義務付けとは関連なしで人種に関するデータを収集する場合もある。本法案の免除規定が適用されないこれらの活動においては、人種に関するデータは今後収集されなくなる。たとえば、政府機関は以下に関連するデータを収集することができなくなる。

  • 州と取引関係にある企業
  • 少数特定の州の教育プログラムとテストに参加する公立学校の生徒
  • UCおよびCSUの入学希望者
  • UC教育援助プログラムに参加している高校生
  • 州の学資ローン免除プログラムに参加している大学生
  • 州の教員採用試験の受験者

 政府機関の活動が制限されるこれらの分野では、州および地方政府が収集する人種に関するデータは少なくなる。この場合、本法案は将来の公共政策に影響を与えることもありうる。
影響が定かでないプログラム

 現在行われている政府機関の活動の中には、本法案の影響が定かでなく、裁判所や議会による法案の解釈によって今後の活動が左右されるものもある。たとえば、連邦政府は州の人口に関する人口統計データをまとめている(主に国勢調査による)。このデータは一般に集合的なデータであって個人別のものではない。州や地方政府機関の多くはこのデータを様々な用途に利用している。本法案では、州や地方政府が今後もこのデータの人種に関する部分を査定、プログラム、報告などの目的で使用することができるのかどうか定かでない。
 本法案のもとでは、州および地方政府機関は連邦政府による要件に準じるために人種に関連するデータを収集することができるとしている。しかし、本法案では、これらの政府機関が他の目的でこれらのデータを分類分析することを今後も継続できるかが定かでない。
 法執行機関の業務については、本法案は法執行官が人種関連の分類を使って個人を描写することを許可している(容疑者の捜査など)。しかし、法執行機関がそのデータを人種別犯罪傾向の分析などの他の目的で使用することができるのかどうかは定かでない。
 さらに、州および地方政府は公共調査を通じて公共衛生に関する様々なデータを収集しているが、これには人種に関するデータが含まれる場合もある。これについては、本法案の医学研究に関する免責が適用され、今後も継続が許可されるように思われる。この件に関しては、裁判所や議会の今後の行動が本法案実施に影響を与えることも考えられる。

提案第54号への賛成意見

「あなたの人種は何ですか」
 アフリカ系アメリカ人? メキシコ系アメリカ人? アジア系アメリカ人? 白人? 先住アメリカ人? または謎に包まれた「その他」ですか。
 あなたが大半のCalifornia州民と同じなら、この質問には辟易していることと思う。
 Californiaは人種的民族的に世界で最も多様な地域であり、我々はそれを誇りに思っている。我々はまた最も独立心に富んだ市民であり、肌の色や先祖によって、分類、カテゴリー分け、区別、分科されることを拒否している。
 政府に提出する書類で、何回も何回もこのつまらない「人種」に関する回答欄を目にするたびに、「そんなこと関係ないだろう、ほっておいてくれ」と言いたくならないだろうか。提案第54号は、医学、ヘルスケア、法執行を除くすべての分野で、政府による人種別分類を廃止するものである。
 人種別分類の維持の擁護者は、個人の先祖や背景についてのプライバシーを守る権利を一切尊重していない。雇用者や学校当局が個人の意思に反して人々にレッテルを貼ったり、個人の「人種」定義が当局の定義と異なる場合に「人種に関する虚偽の申し立て」を科したりしても、彼らはそれを一向に問題とはしていない。
 歴史から学んだことを忘れてしまったのだろうか。
 分類制度は、特定のグループを「所定の場所」に封じ込め、全面的な権利を否定するために考案された。こうした制度は黒人公民権運動で生まれたものではない!公民権運動はそれを忌み嫌っている。事実、元最高裁判事Thurgood Marshallはかつて「人種による区別は大きな害悪であり、専制的で不当なものである。州は公共の場でこのような区別に関わることがないように法による均等な保護を守らなければならない」と語っている。
 歴史を通じ、政府は人々を区分けするために人種的分類を用いてきた。人々を互いに反目させるためにも利用してきた。アメリカの歴史の奴隷所有者や人種差別主義者、ヨーロッパで劣等「人種」としてユダヤ人を差別したナチスがそうだ。アジア人あるいはアジア系の人間が白人か白人ではないかを帰化の目的で判断してきた判事もそうだ。人種分類の擁護者は、政府が強要する人種分類はもともとの意図とはまったく異なるものを生み出したと言っている!彼らは我々の知性を侮辱しているのだ!
 政府により日々行われる執拗な人種分類は、アメリカ社会を内分させる最も強力な勢力である。共通の価値観、共通の関心事を見つけようという我々の本能的な願いに反し、人々の些細な違いを強調するものである。今こそこれを変えるときだ!
 政府は市民を肌の色や祖先によって分類することをやめ、子供たちや孫たちの世代が自分たちを単なるアメリカ人または個人としてのみ考えられる社会を作り出していくべきだ。
 肌の色ではなく、中身で人間を判断することは、自分が何かを定義するために不可欠なことであり、単なるCaliforniaの夢ではない。California州民は単に夢を見るのではなく、他の州の人々が夢見ることを実現する力があるのだ。
 提案第54号に賛成票を投じよう(www.informedcalifornia.org)

WARD CONNERLY、California Regent大学
MARTHA MONTELONGO MYERS、コラムニスト
JOE HICKS、人事コンサルタント<<

提案第54号への賛成意見に対する反論

 肌の色にとらわれない社会を誰もが望んでいる。しかし、信頼できるヘルスケアも必要だ。提案第54号の文案では、病気の蔓延を防いだり、発生を予防するために医師が必要とするデータさえをも奪ってしまう。
 提案第54号が禁止しようとしている医学上のデータは、現在California全州で州民を脅かしている癌や心臓病、糖尿病、感染病その他の疾患を克服するために活用されているものだ。
 提案第54号の支持者は「医学的研究の対象者と患者」に関する免除規定があると言う。しかし、この免除規制に該当しない多くの方法で、健康に関する重要なデータが収集されているのだ。提案第54号で収集が禁止されるデータには、死亡証明書、出生証明書、病院や研究所の報告書、癌登録などの疾患追跡ツールに記載されているものが含まれる。こうしたデータを排除することは、予防可能な疾患の突発的な発生や早死、身体障害などの防止を困難にする。
 こうした理由で、California医師会、米国心臓病協会、乳癌対策協会、Californiaプライマリケア医師会、Californiaヘルスケア協会、California家庭医協会など40におよぶ主要な医学権威団体が提案第54号に反対している。
 この州民発案による法案は、肌の色にとらわれない社会を生み出す代わりに、California州民の健康に害を来たすものだ。提案第54号は生命を救うためのデータ使用を違憲にするものである。
 健康についての情報源としてあなたはどちらを信頼するのだろう。アメリカ小児医師会だろうか、それともこの法案を押し付けるために資金を受け取っているプロの政治家だろうか。提案第54号に反対票を投じよう。これは州にとって、州民の健康にとって害悪である。
(www.informedcalifornia.org)

JACQUELINE JACOBBERGER、会長
 California女性有権者連盟
JOHN C. LEWIN, M.D.、最高経営責任者
 California 医師会
MOLLY COYE, M.D.、前ディレクター
 公共医療サービス部門、Wilson管理部

 住民投票の結果は、賛成301万票、反対532万票であり、提案は否決された。