溺れる犬を棒で叩く

 日本経済新聞月曜朝刊連載 クイックサーベイ は、d:id:hottokei:20050221で言及したように、ネット調査をオカズに、政治経済の動きに関する「世論」をしたり顔で解説してくれるもの。

 10日のクイックサーベイの見出しは、「NHKなくなっても『困らない』57%」。

 このサブタイトルには「番組作り、視聴者とズレ」と付いているが、これには のし を付けて「番組 標本作り、視聴者 母集団とズレ」と、お返ししたいものである。

調査の方法 調査会社マクロミル*1を通じ、九月三十日 - 十月一日にインターネットで調査。全国の二十歳代以上の千三十四人が回答。

 日経は、「ネット調査は回答者に偏り」(9月3日d:id:hottokei:20050910)としていたのに、一ヶ月が過ぎて、その留意点を署名付き記事のクイックサーベイは忘れ去っている。

 特に今回のクイックサーベイの結果分析は後述するように的を外しているものになっており、「従来型調査と比較して共通の特徴(高学歴、労働時間が短い、不安・不満が強い等)が観察され」(d:id:hottokei:20050208)る典型例となっている。

 すなわち、考えもなしに NHKにふんだくられるのは面白くない と、思っている小遣い稼ぎ狙いのネット調査登録モニターの声を拡大して垂れ流しているのが、今回ネット調査の実態ではないだろうか。

 こんなことを言えるのは、NHKがなくなっても困らないという人に尋ねた副質問を解釈すれば、見えてくる。

Q.なぜ困らない?(複数回答)
                                                           (%)
 NHK の番組がそれほど優れていない            : 52

 ほとんど NHK を見ていない                : 48

 受信料を払わなくてよくなる               : 33

 NHK が民放でも制作できるような番組ばかり放送している  : 31

 民放の番組の質が以前より高くなった           : 27

 NHK がなくなれば、民放の番組が今より充実すると予想される: 19
(注 選択肢比率は、紙面上のグラフ(数字なし)から筆者が目測により読みとったもの)

 回答の最上位は「NHK の番組がそれほど優れていない」となっているが、続いて「ほとんど NHK を見ていない」とある。

 番組を見ずに番組が優れていないとうそぶく 重複回答者 の存在が気になる。しかし、この記事を書いた大橋牧人編集委員はそのことに注意を払っていない。あるいは、わざと見ないようにして、ネット調査結果と無関係な自分の思いこみを記事に流し込んでいるのではないだろうか。

 新聞もテレビも、弱いものいじめをすることで人の歓心を買うような振る舞いをすることがある。溺れる犬を棒で叩くような数字を生み出すネット調査は、そんな振る舞いにうってつけな手段になりかねない。

*1:マクロミルは、ネット調査専業会社であり(http://www.macromill.com/client/headermenu/sitemap/index.html の[会社概要-事業内容]、訪問調査、郵送調査といった伝統的な調査を手がけているわけではない。