目を三角にして「正しい」を述べることよりも、つっこみ力という戦術。


つっこみ力 (ちくま新書 645)
 統計漫談家 パオロ・マッツァリーノ による「つっこみ力」(筑摩書房 ちくま新書)で、彼は、自身を突き動かす データいじり の背景を明かす。「正しい」を真面目に訴えたところで世の一部にしか伝わらない、つっこみで世にメッセージを届け「おもしろい」世に。

 この主張は、本「繰り言」を縷々綴りながら私が暖めかけていた思いそのものであった、そのことが私にとって衝撃だった。この本に”先を越されてしまった”。

 昨今出回っているスカスカの新書のように、ウェブコンテンツの使い回し、おしゃべりの語り下ろし、と同列に本書のことを思っていたとしたら、それは誤解である。彼のウェブサイトにある軽妙な語り口はパワーアップしており、その構成は推敲が重ねられて練り上げられており、本として読み応えがある。

 本書は、大きく分けて2部構成。

 前半は、「つっこみ力」マニフェストをラジカルな宣言である。古今東西の文献を縦横無尽に参照して、「つっこみ力」に関するの理論武装を展開している。巻末に列挙された参考文献一覧を見ると、彼の読書量・メディア接触度の豊富さに圧倒される。また、前半と後半の間に挿入された幕間では、彼の統計に関する知識は素人の域でもない。

 後半は、書き下ろし(かどうかは定かでないが)の1本のデータ分析が開陳されている。この雰囲気は、ある種、ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検するd:id:hottokei:20060623)を彷彿とさせる、2つの本の違いは、ヤバイ経済学ではレヴィットはマイクロデータを用いた計量分析だが、つっこみ力のマッツァリーノはただの集計データ(集計データだけでもここまでできる)。残念なのは、経済学の中で生きているレヴィットと違い、マッツァリーノが披露したこの説が学術界で吟味されることは、おそらくないのだろう。