戦争を知らない人のための靖国問題 上坂冬子 文春新書
現役の軍国少年だった山中恒は、少国民についてたくさんの本を書いており、すっきりわかる「靖国神社」問題(小学館)は、当時の時代観、歴史観、今のマスコミが伝えないこと(今のマスコミにとっての秘部)など知らないことが多く興味深かったが、それが山中恒一人の思い込みなのかどうなのか裏を取りかった。
上坂冬子は、山中恒の生年よりも1年早いだけ。彼女のことはこれまで何も知らなかったが、この本は期待以上だった。
ノンフィクション作家として、その筆致の力強さ。事実関係としての歴史。それに対する、各章の最後にごく数行の意見。短く強い彼女の気持ち。
著者が、もっとも撃ちたいことの一つは、靖国神社について何も知らないまま、知らせないまま、「公式参拝問題に関する世論調査」を取ることのばかばかしさ。
皇民がどういう思いで戦時中に出征したのか。そのとき、どのように靖国が置かれたのか。もともと靖国は明治政府からのもの。A級戦犯がどう扱われてきたか。東京裁判、サンフランシスコ講和条約、法務死、...
結論的には、靖国神社について近隣国からのご意見無用という立場を彼女は取る。そうではあっても、偏狭な愛国心ともちょっと違う。日本の歴史を、酸いも甘いも受け入れた高い立場で、ものを見ている。
同時に、過去、国立宗教施設であった靖国神社をどう扱うかについて、位置づけをはっきりさせないままの現在の政府に、対応を迫っている。