読売”ニート調査”の詳報

 28日朝刊の読売にあった id:hottokei:20060526 の詳報掲載。

 その1:解説記事
 その2:質問と回答

 この特集は、読売新聞社社会保障部による署名記事。

 読売新聞社が実施したインターネットモニター調査「若者の生活と仕事に関する調査」では、働いた経験がない若者が社会的に孤立する実態が浮かび上がった。定職に就けずに悩む若者たちの中でも最も深刻で、仕事を探す手前の段階でつまずいている様子がうかがえる。
(服部真、大津和夫

 深刻なのは、この特集を組んだ読売の社会保障部のオツムではないか?集計の手前の段階でつまずいている様子がうかがえる。

  • 調査日=4月26日〜30日
  • 調査方法=インターネットモニター調査
  • 実施方法=調査会社「インフォプラント」(東京)の協力で実施
  • 調査設計=読売新聞社会保障部が担当。労働政策研究・研修機構統括研究員の小杉礼子氏と法政大学社会学部専任講師の樋口明彦氏が監修
  • 調査対象者=パネル4万7578人に質問。回答した2万102人のうち、「長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の35歳までの男女(主婦、学生を除く)が身近にいる」と答えた者の中から、年齢、性別、居住地域を考慮して1500人を抽出
  • サンプル内訳=男50%、女50%▽1都3県・近畿・東海50%、その他50%▽20、30、40、50歳代各25%

 集計対象の標本の流れは、この説明書きを読めば

  インフォプラント・パネル 47,578
   → 回答 20,102
    → 抽出 1,500

という形で絞られていくように見えるが、「長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の35歳までの男女(主婦、学生を除く)」が「身近にいる」と答えたのが、パネルの半分である、とはちょっと考えづらい。

「長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の35歳までの男女(主婦、学生を除く)が身近にいる」の有無について、回答してくれたのが、48,000近いパネルのうちの、約4割の20,000程度、と理解する方が自然である。

 すると、上記の流れの実態はこうである。

  インフォプラント・パネル 47,578
   → 回答 20,102
    → 「長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の男女が身近にいる」と答えた者 ??,???
     → 抽出 1,500

 「身近にいる」と答えた者の人数は明らかにされていない。

 「身近にいる」と答えた者で集計を行ったわけでなく、”年齢、性別、居住地域を考慮して1500人を抽出”というプロセスを経ている。一見、正当なプロセスに見える。しかし、抽出をして形を整えたのは、長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の35歳までの男女ではなく、そのような男女が「身近にいる」と答えた者のである、ということに注意。


 記事本文から。

 今回の調査は、ニートやフリーターなど、無業者や定職を持たない若者の生活を浮き彫りにするのが目的。選挙人名簿からの無作為抽出では、これらの若者を捕捉できないため、インターネットを使った独自調査を企画。パソコンが使える若者は高学歴者に偏るため周辺に聞き、若者本人について詳しく知る親族、友人などが回答した。

 「若者本人について詳しく知る」としているが、質問文には、こうある。

 あなたの身近にいる、長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の若者(おおむね35歳までの男女で、学生でも専業主婦でもない人)のうち、あなたが最もよく知っている人を1人思い浮かべてください。

としか言っていない。最もよく知っている=くわしく知る と言えるのか?

 パソコン利用、デジタルデバイドに関する説明も一見もっともらしく聞こえる。

 しかし、その説に乗っかるとしたら、仮に親族、友人がパソコンを使える人が高学歴というのなら、その親族、友人らが知っているという若者もそれと同程度の境遇にあることが予想されないか?

就職に学校の影響大…調査を監修した労働政策研究・研修機構統括研究員の小杉礼子

 働いていないか、時にアルバイトをする程度の若者の生活を浮き彫りにするために、調査モニターに身近な若者について答えてもらった。本人ではないから間接情報だし、統計的な代表性は弱く、ここでとらえられた若者の現状が、あまり働いていない若者全体の状況をそのまま表すものだとはいえない。だが、モニターにはなってくれそうもない若者たちの様子がつかめた。

 今回の読売の情報収集について一定の留保は置いているのに、「様子がつかめた」と言ってしまっていいのか?

 まず、学校中退や中学段階で学校を離れた若者たちが多かった。…

 また、働いたことのない若者たちの孤立した状況が際立った。…

 本当だろうか。

 質問は全部で、24題。

10. 本人から友人の話を聞いたことがありますか。あるとしたら何人ぐらいについてですか。
とか、
20. Aさんが、次のような公共の就業支援の施設やプログラムがあることを知っていると思うものをすべてお選びください。
とか、聞かれて、まともに答えられるか?

 これにすべて答えるのは辛抱強さが必要。”調査”の”意図”に乗じきれない人は、途中で回答を脱落することも想像できる。

 いわゆるニートなるものが現実には「身近にいる」ことはなくても、質問の作りとして「身近にいる」という人をスクリーニングしているという構造は、容易に推測することができる。報酬狙いのプロ回答者がネット調査であれば、より多くの設問をこなして報酬を得ようとしたり、あるいは、「身近にいる」と答えた場合のその先の質問文を見たくて事実と異なる回答をしたりすることも、想像できてしまう。

 これにより集めらるデータはニートに一定の先入観を持っている人により回答が完了されてしまうのでは、と危惧せざるをえない。

 私は、こんなもの、調査だなんて、呼べない。情報収集である。

【質問と回答(数字は%)】

 あなたの身近にいる、長く働いていないか、時々アルバイトをする程度の若者(おおむね35歳までの男女で、学生でも専業主婦でもない人)のうち、あなたが最もよく知っている人を1人思い浮かべてください。その人をAさんとします。

  1. Aさんは親と同居していますか。
  2. Aさんは結婚していますか。
  3. Aさんの最終学歴を教えてください。
  4. Aさんはどんな「働き方」をしてきたのでしょう。最も近いものを一つ選んでください。
  5. Aさんはなぜ上記のような「働き方」をしていると思われますか。当てはまるものをいくつでもお選びください。
  6. Aさんの年収はどのくらいだと思いますか。
  7. Aさんの外出する頻度はどのくらいですか。
  8. その外出の目的は何が多いのでしょうか。当てはまるものをいくつでもお選びください。
  9. Aさんの活動範囲はどのくらいですか。
  10. 本人から友人の話を聞いたことがありますか。あるとしたら何人ぐらいについてですか。
  11. Aさんの学校の出席状況はどうでしたか。
  12. Aさんの学校時代の成績はどうでしたか。
  13. Aさんは在学中に部活やサークル活動をしていましたか。
  14. Aさんは在学中にアルバイトをしていましたか。
  15. Aさんは在学中に就職活動をしていましたか。
  16. Aさんの家族(親御さん)の経済的な豊かさはどのような印象ですか。
  17. Aさんの家族との関係はどう見えますか。
  18. Aさんの家族(親御さん)はAさんの仕事についてどう考えているようですか。
  19. 今、Aさんは仕事や将来のことについて、どんな人に相談しているでしょうか。
  20. Aさんが、次のような公共の就業支援の施設やプログラムがあることを知っていると思うものをすべてお選びください。
  21. Aさんは安定した就職を希望しているようですか。
  22. Aさんは、今後の生活に不安を感じているようですか。
  23. 今、Aさんに、どのような助けが必要だと思いますか。
  24. Aさんに非行歴などはありますか。

22. Aさんは安定した就職を希望しているようですか。

という質問をしつつ、また別の質問で

24. 今、Aさんに、どのような助けが必要だと思いますか。

について、「働かせてくれる職場」という選択肢を設けていることも、いわゆる「ニート」なるものに対する先入観が色濃く表れている。

デザイン課 安芸智

 記事には挿絵があり、暗い部屋でテレビゲームの画面を見つめる男、食事をのせた盆を持っている母親とおぼしき親に背を向けている、というのがある。

 24題の質問や回答の選択肢にはテレビゲームという言葉はないにもかかわらず、である。

 この記事の見出しは、

働くことが不安、社会性欠き孤立 … フリーター・ニート ネット調査

成績優秀 良好な家族関係

求められる自立訓練

 この記事のどこを見ても、「安定した就職」を求めづらくなっている現代の就労環境といった経済社会に対する視点、というものはなかった。

 ひと言 いってもいいかな?「ニート」って言うな! (光文社新書)