もっと驚くべきは、新聞社の統計読解力だ。
mainichi-msnから
テレビが消える日:/5 「デジタル棄民、生むな」 過疎地で不安感、高い認知度
(冒頭略)
この昭和村で04年9〜11月、地上波テレビのデジタル化に関する実態と意識調査が行われた。地元のTBS系列局、テレビユー福島の市村元・常務が幾度も足を運び、当時の全715世帯にアンケートを配布。487世帯から回答を得た(回答率68・1%)。以下はその結果から−−。
(中略)
だが驚くべきは、この現状より、村人の地上デジタル放送への関心度だ。
企画の初回で報告したように、総務省の全国調査(05年3月)d:id:hottokei:20050614 で「2011年アナログ停波」の認知度は9・2%に過ぎなかった。ところが、同調査の半年前に行われた昭和村の調査では、村全体の41・1%が同様の問いに「知っている」と答えた=下図。高齢世帯に限っても33・2%。テレビの買い換えの必要性も、村全体の52・6%、高齢世帯の41・8%が「知っている」と答えた。
しかし、昭和村の1人当たり平均所得は191万7000円(02年度)。テレビの買い換えに出せる費用は「5万円以下」が村全体の半数以上、52・6%を占める。認知度の高さは、不安感の裏返しともいえる。
下図は、ウェブ画面ではなく、実際の新聞紙面でしか掲載されていない。紙面の円グラフを数字により採録引用すると、
2011年デジタル完全移行
(昭和村全体)
知っている 41.1
知らない 56.9
無回答 2.0
アナログ停波の時期
(総務省全国調査)
2011年 9.2
その他の年 16.7
わからない・不明 73.9
注:総務省は四捨五入のため計100%にならない(数字は%)
これはいったい何なのだろう。そもそも話がかみ合っていない。
総務省全国調査のソースは、地上デジタルテレビジョン放送に関する浸透度調査の結果 平成17年6月14日である。
ここからたどるPDFファイル(全10ページ)の、4ページ目にある円グラフの内容を採録引用する。
アナログ停波の時期についての認知
2005-2009年 4.0%
2010年 6.4%
2011年 9.2%
2012年 2.5%
2013年 3.8%
わからない・不明 73.9%
である。
賢明な読者には、新聞記事がどんな状態になっているか、おわかりだろう。
テレビユー福島の昭和村調査は、停波するかどうかとその時期をワンパッケージにして知っているかどうか Yes/No 2択の質問 にしている。一方の総務省調査は、停波時期を 5択 の中から正解を選ばなければならない質問になっている。
内容が似ているからといって、質問文の異なる2つのデータを並べて比較するのは、意味がない。むしろ害までなりうる。
もう一度新聞記事を見て欲しい。
こんな「驚く」ようなデータを前にしたら、基となるデータがなんなのか疑ってかかって原典を検証してみることはないのだろうか。ところが、記者は、全国平均よりも所得水準の低い村の方が地デジ認知度が高いという数字をもとに、「認知度の高さは、不安感の裏返し」とまで推理を働かせている。
記者はもちろん、校閲担当も含めて、今一度、一次情報を洗ってみようということがなかったのだろうか。
近ごろ巷に流行る株取引誤発注や耐震偽装見逃しのことなどを、新聞社は笑っていられない。
もっと驚くべきは、新聞社の統計読解力だ。
ところで。
その一次情報を見るにもよくよく批判眼を磨いておかなければならないこともある。
テレビユー福島調査は、このmainichi-msnによると「幾度も足を運び、…回答率68・1%」というようメタデータが記されている。
一方、この連載の初回にある総務省調査はこのように紹介されている。
テレビが消える日:/1 業界に9.2%ショック 「アナログ停波」周知進まず
2011年7月24日−−この翌日から、いま国内にあるテレビの大半は、粗大ゴミになる。日本のテレビ放送がアナログから地上デジタル放送に切り替わり、デジタルチューナーの付いていないテレビは映らなくなるからだ。だが、残り5年余となった現段階でも、国民への周知すら進んでおらず、未解決の課題も山積している。知られざる巨大プロジェクトの「今」を、シリーズで報告する。【中村美奈子、大迫麻記子】
(中略)
05年3月、地上デジタル放送の旗振り役である総務省は、全国の15歳以上80歳未満の男女3965人を対象に、「地上デジタルテレビジョン放送に関する浸透度調査」を行った。国民への周知度を知る目的だ。
あらためて一次情報である総務省PDFの2ページ目を見てみる。すると、
調査概要
○調査実施時期 平成17年3月9日より調査票発送開始
○調査対象地域 全国47都道府県の全域
○調査対象者 男女15歳以上80歳未満の個人
○調査方法 郵送調査
○サンプル数 3,965
○調査委託先 (株)ビデオリサーチ
この調査の方は、郵送調査と見受けられる。そして3,965サンプルという回収が得られたのは、一体全体、何通発送した下で得られたのかは、残念ながらこの一次資料の中からさえも知ることはできないようになっている。
*1:ま、私の繰り言にしたところで、意味のよく通らない勘違いした文章が書き捨てられているわけなのですが...