企業が世論に働きかけることの是非

 世論操作、について思い出すと、公平な無作為抽出の標本調査であるビデオリサーチ視聴率調査に対して、テレビ局が意図的に標本に接触して影響を与えたことがあったり*1、公平に誰もが参加できる(はずの)集会に、その主催者が意図を持ってかつ隠れた形で報酬を支払う聴衆参加や偏った集会進行を行ったり*2した例がある。

 これらは、公平さに対する挑戦行為であり、企業の社会的責任(CSR)にもとる行為として指弾されるべきものである。*3

 今回の神奈川県の喫煙規制を問う「アンケート」に対するJTの関与について、謗(そし)りは免れない面はあるだろう。

 しかし、今回の神奈川県アンケートはネット調査であり、誰もが意見を提出することができる開かれたネット調査だったのである。賛成側にも反対側にも、利害関係者として影響を及ぼすことができるのである。JTウェブサイトでは、日頃から「喫煙率の減少に係る数値目標」の設定等に反対します。」と旗印を鮮明にしている。”合法的”企業であるJTが行う営業活動を否定することはできないだろう。*4

 問われるべきは、利害関係者である JT の行動が、世間に納得のいくものであったかどうか、である。JTは、個人ではなく、企業であり、その点で負う責任が違っている。

 しかし、JTの今回のアンケートに対する態度は、報道の中で示されてはいるが、

 強制ではなく、個人としてアンケートに協力するように依頼した。社として分煙を主張しており、全面禁煙には異論がある。(asahi.com

 調査する(Yomiuri Online

JTウェブサイトでは、今回の件についてのリリースを出してはいない。

 JTは自らの行動が則を超えたものでないのかどうか調査し、それを早く示した方がよい。

*1:「視聴率操作」に関する調査報告書 平成15年11月18日 日本テレビ「視聴率操作」調査委員会

*2:タウンミーティング調査に関する情報提供への御礼と報告書の公表について 平成18年12月13日 タウンミーティング調査委員会、[http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070130/jkn070130000.htm:title=産経新聞が不適切な募集 最高裁と共催「裁判員制度フォーラム」

*3:世論形成、世論調査ではないが、知の蓄積庫であるネットに対して、自己に不利な情報を削除するという例もある:楽天証券、Wikipediaからの情報削除で謝罪 - ITmedia NEWS

*4: アンケートではないが、国は、「行政機関が命令等(政令、省令など)を制定するに当たって、事前に命令等の案を示し、その案について広く国民から意見や情報を募集する」という意見公募手続(いわゆるパブリックコメント)を法制化している。ネットでも意見を出せることになっている。

 厚生労働省の「『健康日本21』中間評価報告書(案)」に対するパブリックコメントに対して、JTは意見提出をしたことを同社ウェブで06年9月に表明している。