愛だろ、愛っ 再び

 d:id:hottokei:20050726で見た議論、1年経って、妥協案が出て、さらに検討のようです。asahi.comから。

職場の胸部X線検査、原則40歳以上に 厚労省方針 2006年07月21日

 職場の定期健診で年1回行われている胸部エックス線検査について、厚生労働省は21日、対象を原則40歳からにする方針を示した。一般に健康な若い層ではエックス線被曝(ひばく)のリスクの方が高いとの懸念もあることから、毎年の検査は必要ないと判断した。ただ、検査の有効性と有害性のどちらが大きいかについては専門家の間でもなお意見が分かれているため、新たに研究班を設けて検証したうえで見直すとした。

 胸部エックス線検査を巡っては、結核予防法の改正で、05年4月から一律の検査が廃止になり、これを受けて職場健診でも同様に廃止を検討してきた。

 しかし、健診に携わる医師らが「結核だけでなく、様々な疾患の発見に成果を上げており、有効性がないとは言えない」と反発。05年4月に同検討会を設置して検査の有効性などについて議論をしてきたが、意見が対立したままだった。

 このため、同省は全面廃止を見送り、一般に呼吸器や循環器疾患などの発症頻度の高い中高年に絞って実施することで妥協点を探ることにした。

労働安全衛生法における胸部エックス線検査等のあり方検討会(厚生労働省関係審議会議事録等 その他(検討会、研究会等)労働基準局)の第5回資料(文字列検索のできないスキャナイメージPDFの集まり)にある参考資料2 矢野委員 提出資料について、テキストを起こしておく。

3.アンケート調査について
 次に冨田先生が提出された資料ですが、問題点を3店指摘させていただきます。第1に、調査の主体が全国労働衛生団体連合会であり、柚木先生が今回の検討結果がその利害に大きく影響すると何度も述べている利害団体による調査であることです。例えばわが国成人男性の喫煙率の調査結果は、日本たばこ産業JT)の調査と厚生労働省の国民栄養調査では、5〜10%差があり、常にJTの報告の方が喫煙者が多い数値を発表しています。喫煙の有無というような単純な調査ですら調査主体によって影響を受けるわけですから、調査結果がその団体の利益に影響すると公言している団体が調査を行うこと自体、客観性に疑問を持たれても仕方がないことと思います。

 第2に、冨田先生は1,000人の調査という言葉を繰り返していますが、実は回答率は約3分の1にすぎません。従って富田先生が示されたのは1,000人の中の少数意見であり、最大多数の回答はすべての項目で「答えたくない、答えない」であったわけです。私は公衆衛生の教室におりこの種の調査に関わることが多いのですが、一般に質問紙調査では質問の内容は表現によっては、一方の意見の人は回答するが、他方はそもそも回答すらしないということが起こります。このことは調査主体も影響します。さらに回答率も対象の属性によってかなり異なり、バイアスが起こっていた可能性があります。回答率が半分にも達しないといった調査で、回答者だけの比率を使って結論を引き出すのは誤りです。

 第3に、調査の対象とした専門家の範囲です。わが国には各分野の専門家はいますが、今までこうした検診の有効性についての分析がなされていなかったということは、、全衛連なども認めておられることで、その意味で今回の問題についての専門家として十分かということは考えなければならないと思います。それに対して例えばアメリカ、カナダ、イギリスなどでは、多数の専門家を集め検診に関する委員会を作り、専門的に検討した結果、結核が減ってきた今、一律に胸部レントゲン検査を行うのをやめているわけです。つまり、今やこういう形の検査の仕方は日本だけです。もし冨田先生がこの検討会の主題にしている問題について、そのことを専門にしている世界の専門家を対象に調査されるなら、その結果は冨田先生の報告とはかなり異なる結果になったはずである、ということを指摘したいと思います。

 「資料1 これまでの議論の概要」というのを見ると、科学的論議を否定する発言も記録されている。

 科学的論議でやった場合、医療あるいは検査のかなりのものが有用性なしと判定される恐れがあり、単に発見率が多いか少ないかで議論すべきでない。これからはいかに人間に対して愛情をもって見るか。労働者をどうやって愛情をもって見るか。だんだんと減るとはいえ6,000万人の労働者の健康を守ることが、日本国民の健康を維持する上でどれだけ大切なことかということを、もっとよく考えるべきではないか。

この会議の検討内容を復習すると

 労働安全衛生法に基づく定期健康診断等における胸部エックス線検査等の実施の意義・対象・頻度等とする。

 意義を語るには愛情も必要かもしれないが、愛情だけで意義は語り尽くせないだろう。まして、科学を抜きに対象、頻度を語れるのだろうか。