日本の旅券(パスポート)では、消された存在になっている「旧姓」

 「旧姓併記パスポート持つ説明文を出して」→河野外相が「対応を指示しました」とRTJ-CASTニュース 2019年7月6日)ということで、外務省パスポートサイトには、説明ページが載るようになった。

旅券(パスポート)の別名併記制度について(令和元年6月26日)

 渡航先国の出入国管理当局等は,必ずしも日本旅券の別名併記制度に精通していないことから,旅券に括弧書きで記載された別名の意味が理解されず,説明を求められる場合があります。

 このような場合,まずは旅券の所持人が御自身で旅券に併記された氏及び(又は)名について御説明いただく必要があります。その際には以下にあります英語版資料を御活用ください。

 旧姓使用 ではなく、別名併記と書かれている。

 上で赤く着色した英文版資料とは、SYSTEM TO INDICATE OTHER SURNAME AND/OR OTHER GIVEN NAME ON JAPANESE PASSPORTJune 26, 2019

 さて、その説明ページにある

括弧書きによる別名の併記はICAO文書第9303号には規定されていない例外的な措置であるため,ICチップ及びMRZ(Machine Readable Zone)には別名が記録されません

について、この赤字が意味するところについて、よく見てみよう。

ICAO Doc 9303 Part 3
https://www.icao.int/publications/Documents/9303_p3_cons_en.pdf#page=27

そこには、次の例がある。

f:id:hottokei:20190706142625p:plain
ICAO Doc9303 Part 3 Section 4.6 Example of Anna Maria ERIKSSON

 外務省ページは、外務(田中)花子さんを例に、以下の画像を掲げている。

f:id:hottokei:20190706143107j:plain
外務省旅券ページ【参考4】旧姓の記載された日本旅券(イメージ)

 ポイントは、ここ(青色の線を追加)

f:id:hottokei:20190706143149j:plain
【参考4】旧姓の記載された日本旅券(イメージ)[加工]

 パスポートのMachine Readable Zoneには、旧姓 TANAKA は、存在しない。

 外務省ページが外国人配偶者の例とする外務 ウィリアム 花子さんの場合も、見てみよう。

f:id:hottokei:20190706143746j:plain
【参考2】外国人配偶者の姓が記載された日本旅券(イメージ)

 外務 ウィリアム 花子さんは、あくまで

P< JPNGAIMU<< HANAKO

であって、

P< JPNGAIMU<< HANAKO< WILLIAMS

になっては、いない。

 パスポートのMachine Readable Zoneには、WILLIAMSは、存在しない。

 ここで付言すれば、外務省が説明資料で掲げている顔写真は、「日本人」*1の「女性」*2のものだけでその例を尽くしていて、また、それを無造作にも(乱暴な形で)白塗りしていることに、注意したい。

 ICAOの文書では、顔写真は、人として人らしく、かつ、多様なものとなっている。

f:id:hottokei:20190706145046p:plain
ICAO DOC9303 Part 3 page 10-11

 しかるに、外務省旅券のページでは、二重国籍者 の 例であっても、顔写真は「日本人」の「女性」である。

f:id:hottokei:20190706144123j:plain
【参考3】二重国籍者の他の国における姓及び名の記載された日本旅券(イメージ)

 別名併記の例を、「日本人」の「女性」だけに押しつけていることが、残念である。

 例に用いられる顔写真は、「男性」でもよかったかもしれないし、一見、日本人っぽくは見えない「二重国籍っぽい」容姿であっても、よいかもしれないのに。

f:id:hottokei:20190706152516p:plain
記者「選択的夫婦別姓を認めるという方は挙手をお願いします」
【党首討論】記者「選択的夫婦別姓を認めるという方は挙手をお願いします」ただ一人を除いて全員挙手 │ 毎日まとめるニュース速報

*1:いわゆる日本人と思われる容姿

*2:女性に見受けられる容姿