尖閣問題は、民間出身の広報担当が官邸にいたらどう伝わっただろうか。

 下村健一さん。

 TBSラジオで以前あった「下村健一の「眼のツケドコロ」」が好きだった。在京キー局による報道の奔流の陰に、ラジオが土曜の早朝に提供する話題は、時に明鏡止水、時に、よどみ。オウム、イラク、市民、メディアリテラシー、…。とても興味を惹かれた。

 そして、昨日まで、市民メディアアドバイザーと名乗っていらした。彼の新刊を買った私。

マスコミは何を伝えないか――メディア社会の賢い生き方

マスコミは何を伝えないか――メディア社会の賢い生き方

 そんな下村健一さんが、市民活動家を看板にする菅直人に請われて、今日は官邸入りしたという。

 本当ならお喜び申し上げたいところだけど、でも、思う。それで、政権って何が変わるのだろう。

 チリ落盤事故救出劇が、世界中からの脚光を浴びた。そのわけは、チリ政府のスピンコントロール(情報による世論制御*1 )のたまもの。その陰には、封印されているものもあったのに。

 下村健一さんが、もう2ヶ月早く官邸入りしていたら、中国漁船の尖閣諸島沖衝突事件はどう伝わることになるのだろうと想像してみる、と言っては皮肉がきついだろうか?

 清濁併せ呑んで、国内世論の関心を集め、世界世論を引っ張っていくような、スピンコントロール自民党政権が終わって、民主党政権になったら、その必要性、重要性がますます感じられる。

 官邸入り、今本当に求められるのは、例えば上杉隆あたりだったところだろうに。けれども、彼は内閣記者会のジャーナリスト開放の点で、政治家、役人、マスコミから三重にダメ出しなんだろうけど。

 けれども、下村健一さん、

 この国の時代の潮目が、経済成長の配当の分配から、高齢化社会の負担の分配に変化する中、世代間闘争でもある社会保障という課題を、市民にとってわかりやすく、政治家に語らせてあげてください。それがあなたの仕事になるんだと思います。

 そして、社会保障の政策決定は、下村内閣審議官他の官僚ではなく、政治家がその責任で行うべき。

 その覚悟は、今の内閣にあるんですか、と空に問いかけてみる。

官房長官記者発表 平成22年10月21日(木)午後|首相官邸ホームページ

 もう1件は人事案件でございます。明日付けでフリージャーナリストの下村健一氏を内閣審議官に任命することといたしておりますのでご報告いたします。下村氏は長年報道の現場に携わり、ジャーナリストとして活躍しておられることから、その高度の専門的知識と経験を活用し、内閣の情報発信機能の充実を図るため、内閣広報室の内閣審議官に任命するものでございます。

下村健一オフィシャルサイト
内閣審議官就任にあたって(抄)

 新人議員時代から知る菅さんが総理になってから、何がやりたいのか全然伝わって来ないことに、私は苛立ちを感じていました。考えが国民に正確に伝わって、その上で『それは違う』と判断されて退陣するならまだしも、『何をやりたいか/なぜそう決めたのか分からないから』という理由でズルズル支持が下がってサヨナラなんて、馬鹿みたいだと思っていました。

 そんな疑問を菅さんに直接ぶつけたところ、「ならば情報が皆にわかりやすく伝わるよう、一緒に考える役をやってくれよ」と切り返された…というのが、大雑把な顛末です。

 民主党代表選で菅さんが再選された後、いくつかのテレビ番組でコメンテーターが「お手並み拝見」という表現をしたことに、私は強い違和感を感じていました。そんなお任せ民主主義を、この国はいつまで続けるつもりなんだ。我々全員が、この社会の行方を真剣に考えてゆかなければいけないのに、まるで傍観者のような口先だけの批判ばかりしていたら、さらにどこまでもこの国の沈没は止まらないじゃないか。そう思っていただけに、「ならば手伝え」と言われた時、「いや、自分は批判だけしてますから」とは逃げられなかったのです。青臭いと思われるかも知れませんが、それが転身の真相です。

*1:the act or practice of attempting to manipulate the way an event is interpreted by others http://www.merriam-webster.com/netdict/spin%20control