改元は、情報システムよりも社会的コスト

 この一ヶ月で、改元についての動きがいろいろ言われた。

システム改修で新組織 政府、改元時の混乱防ぐ 日本経済新聞 2017/12/31付

 政府は2019年5月1日の改元に伴い必要になるシステム改修に向け省庁横断の新たな組織を来年1月にも設ける。改元後に住民の移転や納税の手続きなどで混乱が生じないようにする。官公庁のシステムは和暦のみで対応している場合があり、全自治体に更新の必要性を周知し、改修を求める。

 新組織は内閣官房の情報通信技術総合戦略室や内閣府のほか、経済産業省総務省など関係省庁の数十人規模でつくる。

 新組織は皇太子さまが即位し新元号に切り替わる19年5月1日以降の日付を、システム内で「○○元年5月1日」などと空欄にするよう全自治体に指示する。

 新元号が公表され次第、空欄を埋めることでシステムが起動する。事前に改修しないと、住民の転出入や公共事業の入札などの情報の更新が滞り、税の還付などで問題が生じる恐れがある。

 年号が変わったからといって、情報システムがダウンすることなど、本当にあるだろうか?

 システムの設計として、そのようなことがないようにあらかじめ作り込んでおくことが肝要。そのためには、年号は、元号に依存しない西暦により変数を定義してシステム構築する以外に選択肢はなかろう。元号変数は、マスターとなる西暦変数を変換するだけのこと。

 システム改修の出来不出来によって、住民の転出入や公共事業の入札などの情報の更新や、税の還付などに、障害が生じるだろうか?

 真の問題は、元号の社会的コストなのである。

 その情報システムに関わる人間に対して負荷がかかることなのである。
d.hatena.ne.jp
hottokei.hatenadiary.jp

 元号に関する混乱は、働き方改革 や 生産性改革 の足を引っ張るのである。

 政府の働き方改革とは、この程度の志(こころざし)なのか。

文書作成、ワードに統一=効率化で働き方改革農水省 時事ドットコム(2018/01/13-15:36)

 農林水産省が文書作成ソフトをマイクロソフトの「ワード」に統一する方針を決め、1月から順次切り替えを進めている。ジャストシステムの「一太郎」と併用してきたが、スマートフォンで閲覧しやすく、外出先でも仕事ができるため、業務の効率化と残業代削減が見込める。

 これまで農水省では、一太郎の方が使用頻度が高かったが、省外で文書を確認しづらく残業が増えがちだった。同省は「全省庁の動きは把握していないが、それぞれワードに移行しつつあり、うちは遅いのではないか」(幹部)と話している。

 また、一太郎の操作経験のない若手職員も増加。「若手からワードに統一してほしいと強い要望があった」(同)という。このため、働き方改革の一環で、国会の答弁書も含め省内の文書作成は原則としてワードに切り替えることにした。

 同省と取引のある民間企業の中には、同省が出した文書の閲覧・編集のためだけに一太郎の使用契約をしているケースもある。ワードへの統一で企業側の負担軽減も期待できるという。

 その点、総務省の統計委員会の指摘は、興味深い。

  諮問第109号「住宅・土地統計調査の変更について」(昨年11月21日)に対して、その答申(1月18日)では、今後の課題して元号・西暦について、以下の指摘をしている。

3 今後の課題
 「現住居への入居時期」等については、「昭和」及び「平成」を付した選択肢区分により把握し、集計・公表しているが、新たな元号の追加も予定されており、換算も複雑となることから、報告者の負担軽減や統計利用者の利便性等にも配慮し、西暦を併記する方向で検討すること。

 ますます注目される推計空き家数、それが今年の秋に調査が実施される総務省住宅・土地統計調査で、5年ぶりにアップデートされることになるのだが、そこで用いられることになる調査票の諮問案*1がこれである。

住宅・土地統計調査 調査票

(時期を尋ねる調査事項は他にもあり、いずれも、このような作りになっている。)

 調査の回答者や統計の利用者に配慮するなら、西暦は並記されるものではなく、西暦で表されるべきであり、併記されるべきが元号ではないのか。回答者や利用者の 誤答 や 誤用 を招いて、統計の作成・利用に混乱があっては元も子もない。

 統計については、週刊東洋経済のこの記事を想起したい。
toyokeizai.net

 元号の用いられる文字には、暗黙の縛りがある。

 アイウエオ、か、カ行、ナ行、ヤ行、ワ のいずれかの 音 で始まるものに限定される、というものである。

元号の公表 秋以降 政府検討 頭文字「M・T・S・H」避ける 日本経済新聞 2018/1/18付

 政府は2019年5月1日の皇太子さまの即位に伴い改める新元号の公表時期について、18年秋以降とする検討に入った。国民生活に支障がでないよう改元まで一定の周知期間を設ける一方、即位と公表の時期が離れすぎないようにして祝賀ムードを高める。新元号は2文字とし、平易な漢字を用いる方針で、絞り込み作業を進める。

 複数の政府関係者が明らかにした。天皇の逝去を伴わない改元は明治以降初めて。政府は新元号のアルファベットの頭文字について、混乱を避けるため明治(M)、大正(T)、昭和(S)、平成(H)と重ならないようにする見込みだ。

 政府は新元号を巡り「国民生活への影響を考慮する」と説明してきた。カレンダー業者などは早期の公表を求めており、政府内にも1年程度の周知期間を設けるべきだとの声があった。1年近く前の公表だと「間が空きすぎて盛り上がらなくなる」との指摘や「元号を巡って賛否が出る」との懸念がある。

 政府内では新元号が施行される19年5月1日にできるだけ近づけるべきだとの意見が強まっており、公表時期を18年秋~冬を軸に絞り込む公算が大きい。同年9月には自民党総裁選を予定しており、政局が落ち着いた後の「19年に入ってもよい」との考え方もある。

 新元号元号法に基づいて定める。昭和から平成への改元時に一部修正した要領は

  1. 国民の理想としてふさわしいような良い意味を持つ
  2. 漢字2文字
  3. 書きやすい
  4. 読みやすい
  5. 元号またはおくり名として用いられていない
  6. 俗用されていない

――の6条件を示した。

 改元日程は来年5月1日、と確定したが、新元号が公開される時期は依然不明。情報システム関係者や印刷業にとって、元号文字の確定は、死活問題かもしれないが、祝賀ムードを高める、賛否が出るという理由で、明かされていない。

 元号が、政治利用されている。

 国民生活への影響を考慮するというのなら、元号として「西暦」を用いるソリューションが、もっともスマートと考える。