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日経新聞のオウンゴール

 内外時評「中外時評調査捕鯨オウンゴール 建前を貫く覚悟が大切」(論説副委員長 飯野克彦)が、大変、面白い。

 記事中、引用されていた本川一善水産庁長官による国会発言は、以下のもの。

○本川政府参考人 少し補足をさせていただきます。
 被災前でありますが、調査捕鯨として大体八割、三千八百トン、七百トン前後をとってきておりますが、そのうち南極海が二千トンであります。ただ、これはミンククジラというものを中心にとっております。ミンクというのは、お刺身なんかにしたときに非常に香りとか味がいいということで、重宝されているものであります。
 それから、北西太平洋で千七百トン程度、二十二年はとっておりますが、そのうち百二十トンが沿岸の調査捕鯨であります。千五百トン強はいわゆる鯨類研究所がとっている鯨であります。ただ、こちらはイワシクジラとかニタリクジラというものを中心にとっております。
 それから、沿岸の小型捕鯨というのが二十二年で四百十七トン捕獲しておりますが、これはツチクジラという、イルカに非常に形が似た鯨でありまして、ジャーキーのような、干し肉になるようなものでございます。この前、鮎川に行かれたときに、鮎川の捕鯨の方がとっておられましたが、これはまさにツチクジラをとる業を営んでおられる方でありまして、この方が南氷洋でとられるミンククジラを扱うということはまずないのではないかなというふうに思っております。
 したがって、ミンククジラを安定的に供給していくためにはやはり南氷洋での調査捕鯨が必要だった、そういうことをこれまで申し上げてきたわけでございます。
 それから、今のデータにつきましては私どものホームページで公開させていただいております。積極的に提供申し上げなかったことについては申しわけないというふうに申し上げたいと思います。

 2012年10月23日、衆議院 決算行政監視委員会 行政監視に関する小委員会では、震災復興補正予算関係として、鯨類捕獲調査安定化推進対策までもが計上されていたことを疑問視して農林水産省水産庁を質していた。被災地、宮城県石巻市石巻港に寄港するのは沿岸捕鯨船であって、南氷洋での調査捕鯨船(鯨肉の水揚げは東京)は関係ないのでは、と小委員会委員らに水産庁は突っ込まれる。

 この質疑の中で、「お刺し身などで重宝がられているミンククジラの安定供給のために南氷洋調査捕鯨が必要」という本川長官発言が、日本による南極海での調査捕鯨をめぐる国際司法裁判所での3月31日判決の中で引用されたのだという。そのため、"日本、語るに落ちた"となってしまい、南氷洋調査捕鯨を認めないとする判決が下ったのである、と、飯野副論説委員長は「建前を貫く覚悟が大切」と戒めている。

 同じような問題をはらんでいるのが、建設業に限って技能実習生の枠を拡大しよう、とする政府の動きだ。

 技能実習制度は途上国の人材育成という国際貢献を目標、つまり建前に掲げている。しかし実際には、主に零細企業が低賃金の労働者を確保するための抜け道になっている、との批判を浴びてきた。

 建設業に限って枠を広げるなら、そうした批判を裏書きするに等しい。足元の建設現場の人手不足を補いたい、という本音が透けて見えるからだ。

 技能実習制度そのものが調査捕鯨のように国際的な裁判に持ち込まれる可能性は、小さい。それでも、制度の建前を政府がないがしろにするなら、日本の国際的なイメージが打撃を被るのは避けられまい。

 建前と本音の使い分けは好ましいことではない。ただ、現実の問題として避けられないときもあろう。その際、自ら建前を否定するような本音を明らかにすることは、内輪の集まりならいざしらず、論理的な主張をぶつけあう国際社会にあってはオウンゴールにつながる。

 少なくとも指導的な立場にある人は、公の場では建前を貫く覚悟が求められる。

 こんな記事を書くこと自体、技能実習生制度の危うさがを浮き立たせている。技能実習生は、農業分野にも存在する。

 そして、「同じような問題」は、クジラや技能実習生以外に、世界的にもっと大きな問題が、透けて見えるくる。