元号表記の行方: 西暦記載へオープンデータ政策は舵を切るのか。

 役所文書の中での元号表記の慣例は、これによって変わっていくことになるようになるのか。

 政府のIT戦略本部の中に設けられた電子行政オープンデータ実務者会議で、こんな案が示された。

○手順4:年の値を西暦で記載

 これは、3月21日開催の第3回実務者会議の 資料6「二次利用の促進のための府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン)(仮称)(案)」、そのガイドラインにぶら下がるものとして設けられている 別添「数値(表)、文章、 地理空間情報のデータ作成に当たっての留意事項(案)」の記述のうち、数値(表)に関して記しているものである。

1.数値(表形式)データの作成に当たっての留意事項
(2)表形式データにおけるデータの構造の留意事項

  1. 1 つのデータセット*1には、1 つのテーブルのみを含める。(複数個のテーブルを含めない)
  2. データセルに、整形や位取りのための文字(スペース、改行、カンマ等)を含めない。
  3. 年の値には、西暦表記とし、和暦を併記する。
  4. 数値等のデータの値やタイトル、単位以外の情報を、セルに含めない。
  5. すべてのセルは、他のセルと結合しない。
  6. 値が存在しない場合を除き、データセルを空白にしない。(データ値を省略しない)
  7. データセルの内容を示すタイトルは、1 行で構成する。
  8. データの単位を明記する。
  9. データセルの内容、単位、記数単位を示すタイトルは、それぞれ別の行に記載する。

 留意事項3は、元号を排除しているわけではなく、元号を並列使用させる余地を残している。

1.数値(表形式)データの作成に当たっての留意事項
(2)表形式データにおけるデータの構造の留意事項

【留意事項3】
年の値には、西暦表記とし、和暦を併記する。

【解説】
 図7の年次カラムは和暦で書かれている。コンピュータのプログラムでは、年の値を数値の大小により比較することが多い。従って年の値は、年が経過するごとに値が単調増加する西暦とし(図8)、必要に応じて和暦を併記する。

 また、内容によっては年度表記されていることもあるため、歴年と年度の判読が可能な記述をする必要がある。

 この別添文書では、”ケーススタディ”としてこれら留意事項を適用する実例を掲げており、手順という形に落とし込んでいる。これは、公務員が公開するネ申Excelが日本の生産性を落としている話 - Togetterに対して つける薬 になるであろう。

1.数値(表形式)データの作成に当たって留意事項
 (4)ケースタディ(構造の整形)

○手順1:複数のテーブルに分割
○手順2:脚注、番号キャプションを削除
○手順3:不必要なスペース、改行カンマの除去
○手順4:年の値を西暦で記載
○手順5:セルの結合を解除
○手順6:省略されたセルをコピー
○手順7:タイトルを1行にまとめる
○手順8:データの単位を明記
○手順9:単位や記数を別の行に移行

 特に手順4を抜き書きする。

○手順4:年の値を西暦で記載

 西暦の年を記載するためには、2 つの方法がある。

  • 和暦を記載しているセルを書き換える。
  • 和暦を記載しているカラムの隣に、西暦を記載するカラムを追加する。

 今回の例では、前者の方法をとる。

 週刊東洋経済は、 2012年2月4日号 において、シニアライター福永宏氏が「文書は最低西暦を併記、統計からは元号一掃を」という主張を述べている。実務者会議の案のままでは、元号は残ってしまう。

 元号に関しては、法律として元号法は存在しているものの、その使用は義務ではなく慣行、と内閣は整理している。

昭和六十二年四月一日
野田哲

公的機関における元号の使用に関する質問主意書

三 公的機関における元号使用の義務の有無と強制力について
1 一般に、国・地方公共団体またはその他の公的機関が元号を使用すべき憲法上の義務は存在せず、また元号使用を強制する法令は存在しないと考えるが、政府の見解を伺いたい。

2 政府は、元号法案の国会審議に際して、「公的な機関の手続なりあるいは届け出等に対しましては、行政の統一的な事務処理上ひとつ元号でお届けを願いたいという協力方はお願いをいたします。しかし、たつて自分は西暦でいきたいという方につきましては、今日までと同様に、併用で、自由な立場で届け出を願つてもこれを受理すると、そういう考えでおるわけでございます。」(一九七九年四月二七日、参議院本会議における三原朝雄国務大臣の答弁)、また、「従来、戸籍などの諸届けの用紙に、不動文字で「昭和」と、こういうことを刷り込んでおることは事実でございます。これは申請者に便宜を与える、便宜を図るというだけの趣旨のものでございまして、強制するとか拘束するとかという趣旨ではございません。……この辺につきましては誤解が起こらぬように、強制する、拘束するものではないという趣旨を十分徹底して、行き違いがないようにいたしたいと思つております。」(同、古井喜實国務大臣の答弁)、また、「現在の住民基本台帳、それから印鑑登録のそれらの様式は、いずれもこれは市町村が自主的な判断で定めておるわけでございますが、一般に元号が使用されておりますけれども、これはもう御承知のように従来からの慣行によつて行われ、協力を求めておる、強制するというものでないことは言うまでもございません。」(同、澁谷直藏国務大臣の答弁)、さらに「教科書検定における元号の取り扱いについても、従来から、年代の表示については、教科の目標、内容等に照らし、適切な方法がとられるよう指導している……。」(同、内藤誉三郎国務大臣の答弁)など、公的機関における元号の使用は、あくまで「便宜的」「慣行的」なものであり、したがつて「協力を求める」ことはあつても「強制するとか拘束する」ものではないと、繰り返し答弁している。今日もその立場、見解は不動であると解するが政府の見解を示されたい。

昭和六十二年四月十日
内閣総理大臣 中曽根康弘

参議院議員野田哲君提出公的機関における元号の使用に関する質問に対する答弁書

三について
1 国・地方公共団体等の公的機関が元号を使用すべき憲法上の義務はない。
 また、現在、国・地方公共団体等の公的機関の内部において事務の統一的な処理のため元号の使用を義務づけるような規則等は別として、国民又は国・地方公共団体等の公的機関に対し、一般に元号の使用を強制する法令は存在しないと考える。

2 国・地方公共団体等の公的機関の事務については、従来から年の表示には原則として元号を使用することを慣行としてきている。したがつて、一般国民から公的機関への届出等においては、公務の統一的な処理のために、書類の年の表示には元号を用いるよう一般国民の協力を求めてきているが、このような考え方は今日においても変わりがない。

 元号使用の慣行によって、社会的混乱、コストが生じてることは、この繰り言でも、以前言及したことがある(これは、氷山の一角。元号誤認による社会的混乱 - 繰り言)。

 果たして、オープンデータという新しい政策の波は、元号使用をどこへ運んでいくのだろうか。

 ちなみに、この別添では、「データの構造」と区別して、「データ形式」についても留意事項を設けている。

(3) 表形式データにおけるデータ形式の留意事項

  1. 項目ラベルの各値は、 公開されているコード*2を積極的に活用する。
  2. タイトルやデータ型は、一定の基準に従ったフォーマットで記述する。
  3. データセットは、オープンな標準形式で提供する 。

*1:筆者注

 ここに登場するデータセットには、この別添の中で、定義が与えられている。
●データセット( Dataset Dataset DatasetDataset ):
> テーブルを含む 表形式データの まとまり。

*2:地域コード、法人コード等