前年比較が不適格

 厚生労働省社会福祉施設等調査の平成21年結果が、ゆらぎつつある。

厚生労働省:平成21年社会福祉施設等調査結果の概況を見てみる

調査の概要

5 調査方法及び系統

※調査方法及び系統について
 調査票の配付・回収は、平成20年調査までは、社会福祉施設等については都道府県・指定都市・中核市が実施し、障害福祉サービス事業所及び相談支援事業所については厚生労働省から郵送で実施していたが、21年調査よりすべての調査票を厚生労働省が委託した民間事業者からの郵送に変更した。

結果の概要
I 施設の状況
 1 施設数

 この調査は、平成21年5月1日に把握した施設の10月1日現在の状況についての調査であり、21年から調査の方法及び系統を変更したため、調査対象施設のうち回収できなかった施設がある。この概況は回収できた施設のうち、活動中の施設について集計したものであるが、調査の方法等が変更になっているため、平成21年と20年以前との年次比較は適さない。


 これでは隔靴掻痒だが、日経電子版19日付けが背景を説明してくれている。

(日経)
福祉施設の数など、調査民間委託で把握困難に

 有料老人ホームなど全国の社会福祉施設の施設数や入所者数などを調査する厚生労働省の「社会福祉施設等調査」を市場化テストで民間委託した結果、回収率が下がり、実態を把握できなくなったことが分かった。同省が16日に公表した2009年分の調査結果では増減の年次比較も困難になった。全数把握していた国の調査を民間委託する難しさが露呈した格好だ。

(中略)

 同省によると、民間委託での初調査となった09年分は委託を受けた調査会社が全国6万2288施設に調査票を配布したが、回収できたのは5万8656施設(94.2%)にとどまった。同省が都道府県など自治体を通じて調査していた08年分はほぼ全数(99.9%)を把握できていた。

 おおよそ 5% ポイントの回収率低下。この数字を、割合で見れば小さいと見る向きはあるかもしれない。しかし、実数ではどうなるか。実数の大小について思いを巡らせてほしい。

(日経)
 例えば有料老人ホームの施設数と入所者数は同調査で実態を把握。08年は10月1日時点で全国で3割増の3400施設、入所者も過去最多の2割増の14万798人に達するなど急増していたが、09年は正確な増加数が分からなくなった。

 実際に厚生労働省のサイトから数字を拾って見てみよう。

第4表 施設の種類、年次別在所者数
有料老人ホーム

2004年2005年2006年2007年2008年2009年
在所者数(人)55,46169,86791,524114,573140,798148,402
対前年増加率(%)*126.031.025.222.95.4
注:
1) 平成21年より調査の方法を変更し、調査対象施設のうち回収できなかった施設があるため、20年以前との年次比較は適さない。なお、回収できた施設のうち、活動中の施設について集計している。詳細は「調査の概要」参照
2) 母子生活支援施設の在所者数は世帯人員数であり、在所者の総数に含まない。
3) 在所者数を調査していない施設は掲載していない。

 高齢化社会が進む中、これまでの増加率が20%超から5%程度に鈍化するというのは、不自然である。

 従来のペースを延長して考えると、およそ1万人の有料老人ホーム在所者数、両国国技館の客席を埋めるくらいの数の人たちが統計から消えるということである。

 このことは、高齢者問題だけでなく、少子化時代の子育て環境問題にも響くことになる。

(日経)
 保育所などで働く保育士数も同調査しか把握しておらず、同省保育課は「今後、国会などには参考値として説明するしかない」と困惑している。

*1:厚生労働省の数字を基に、筆者が計算したもの。