研究費は、泥棒に追い銭 - 厚労省代替医療研究班

 日経、26日付け記事から

代替医療の実態を調査 厚労省、効果などデータ収集も

 厚生労働省は欧州などで広がり国内でも利用者が増えている「ホメオパシー」を含む代替医療について、国内外の利用実態調査に乗り出す。漢方や針きゅうも含め幅広く調べる。専門家による研究班を月内に発足、効果の科学的な根拠などに関するデータも収集する。通常の医療に効果的に代替医療を組み合わせる方法を探る参考にする。

 そこで、厚労省聖路加国際病院福井次矢院長を主任研究者とする研究班を設置、来年3月まで調査する。研究費は1千2百万円。医療機関や家庭での代替医療の利用実態を把握し、研究論文などをもとに効果の有無に関する科学的根拠(エビデンス)を集める。

 ここで名前の挙がっている福井次矢氏とは?

 彼は、2006〜2008年、延べ 3290万円*1 を費やした「統合医療の安全性と有効性に関する研究」厚生労働科学研究費補助金 地域医療基盤開発推進研究事業)の研究代表者である。

 この研究の報告書は、ウェブから見ることができる。直接、URLリンクを張ることはできないが、検索トップ|厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEMから、キーワード「統合医療の安全性と有効性に関する研究」で検索、そこでヒットする”研究年度 平成20(2008)年度、報告書区分 総合”から、全体の報告書を、4ファイル組みの、画像型PDFファイル として、引き出すことができる。

 この報告書の中に含まれている「統合医療ガイドブック*2には、ホメオパシーの問題点と対策について、以下のように指摘している。(着色等は、筆者による。以下、同様。)

c. わが国におけるホメオパシーの問題点に対する対策

 わが国の患者がホメオパシーを選択するのは、西洋医学を最初から嫌っている場合を除けば、西洋医学的に万策尽きた場合を含み西洋医学以上の効果が期待できる場合、あるいは西洋医学と併用したときに相加ないし相乗効果が期待できる場合でしょう。とはいっても、ホメオパシーを希望する患者のほとんどは西洋医学的診断による疾患の治療を望んでいます。つまり、患者を中心に考えるならば、西洋医学的に万策尽きているかどうか判断することが絶対に必要です。もしすぐれた西洋医学的アプローチがある場合にはその情報を患者に提供し、その上でホメオパシーを選択するか否かは患者が決定すべきです。そのためには西洋医学の良さと限界を知っていることが必須です。したがって、ホメオパシーを実践するものは一流の医師、歯科医師、獣医師でなければなりません。西洋医学的に一流であれば、自分の専門領域にホメオパシーを用いても患者に不利益を与えることがなく、他の医師、歯科医師、獣医師から批判されることは極めて少ないと考えられます。

 まともな医師は、普通、ホメオパシーに手を染めることはありえないと思うが、このガイドブックは、何を導こうとしているのか。

 これが、3カ年、3290万円の成果なのだろうか。

 もう一度、検索トップ|厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEMから、キーワード「統合医療の安全性と有効性に関する研究」で検索して、”研究年度 平成20(2008)年度、報告書区分 総合”から出てくる報告書の「概要版」を読んでみよう。

 そこには、こうある。

研究目的:
 相補・代替医療(CAM)および統合医療の利用状況の現状と有効性・安全性について、既存データを収集・整理するとともに、EBMの概念に則って、可能な範囲内で実証作業を行い、海外のCAMをめぐる状況を調査してわが国の医療システムの中でCAMおよび統合医療の扱い方に関する政策提言をまとめる。

研究方法:

 多岐にわたるテーマについて、さまざまな研究方法を用いた。われわれが過去に行った健康日記研究のデータ(Fukui T, et al The ecology of medical care in Japan. JMAJ 2005;48:163-167)の解析、調査機関のパネルに登録している医師を対象にしたインターネットによるアンケート調査、保健所や地区医師会など 1271施設を対象にした書面でのアンケート調査、鍼灸師100名を対象にした血液検査データの解析、文献検索を基にしたCAMの有効性・安全性に関するエビデンスの整理と統合医療ガイドブックの作成*3、鍼の臨床試験の報告に関する国際統一様式(STRICTA)の改訂作業への参加、鍼治療の副作用に関するランダム化比較試験RCT、米国、英国、中国のCAM関連施設の訪問・調査などである。

結果と考察:

 主な結果を抜粋する。有症者のうち、23%が薬理系CAM、7%が理学系CAMを利用し、医療機関受診者のうち、27%が薬理系CAM、11%が理学系 CAMを利用していた。一方、1271施設の保健所や地区医師会などにCAMの利用に関する相談・苦情があったのは、健康食品について75件、カイロプラクティック・整体31件、漢方薬28件などであった。CAMの有効性・安全性については、最近ではランダム化比較試験(RCT)を用いて検証される事例が増えているが、鍼治療のような理学系CAMについてはプラセボ対照群の設定方法や評価方法に一定の見解がなかった*4。米国のNational Center for Complementary and Alternative Medicine(NIH/ NCCAM)の活動は、わが国での状況をはるかに凌駕する体制のもとに行われていた。

結論:

 非常に多くの国民がCAMを利用しているにも拘らず、わが国の研究者による安全性・有効に関する質(エビデンス・レベル)の高い研究が少なく、情報の整理・公開も不十分である。欧米の先進諸国、とくに米国のNIH/ NCCAMの活動に比べると、わが国の遅れは歴然としている。医学の傍流とみなされる傾向のあるCAMについても、EBMの視点からの本格的な取り組みが早急に求められる。

 「研究目的」に Evidence Based Medicine を掲げておきながら
「研究方法」は、RCTと、ネットアンケート*5、さらには 日記研究 をごちゃ混ぜにして、
あげく、「結論」は、もっと研究費を寄こせ、と読める。

 そして、先の報道の通り、この福井次矢氏を主任研究者に迎えて、1200万円が投じられる 研究班 が組織される。

 福井次矢氏による先の3カ年研究の狙いが、こういう形で成就するのか。

 そして、今度の研究会は、貴重な金と、貴重な時間を使って、いったい何をしようというのだろうか。

 8月24日の日本学術会議「ホメオパシー」についての会長談話では、結論はすでに示されているというのに。

 過去には「ホメオパシーに治療効果がある」と主張する論文が出されたことがあります。しかし、その後の検証によりこれらの論文は誤りで、その効果はプラセボ(偽薬)と同じ、すなわち心理的な効果であり、治療としての有効性がないことが科学的に証明されています。英国下院科学技術委員会も同様に徹底した検証の結果ホメオパシーの治療効果を否定しています。

*1:2006年 14,500千円, 2007年 9,200千円, 2008年 9,200千円

*2:統合医療ガイドブック - 補完代替医療の安全性・有効性と統合医療の意義 -」 2009年3月 厚生労働科学研究費補助金統合医療の安全性と有効性に関する研究」班

*3:筆者注 統合医療ガイドブックには、「エビデンスをどのように探すか」という章が設けられているが、Pubmedコクラン共同計画などの列挙するだけで、ホメオパシーなどの有効性について判断を示していない。

*4:代替医療のトリック代替医療のトリック「第II章 鍼の真実」には、ドイツにおけるプラセボ針治療によるメガトライアルが記されている(参照論文 Ernst, e "acupuncture - a critical analysis' J intern Med 2006)。研究班の方々は、この論文をどう評価されたのだろうか。

*5:偏りのある集計は、統計と呼ぶに値しない。