人気じゃなくって、登場順だからでしょ。

 asahi.com 22日から。

ふるさと納税は人気投票? 希望は1位北海道、2位沖縄

 住民税の一部を生まれ故郷などに納税できるようにする「ふるさと納税」をめぐる20〜30代を対象にした意識調査で、北海道と沖縄県への納税を希望する回答が群を抜いて多かった。東京など都市部も上位を占めた。都市と地方の格差是正効果に疑問が生じる結果で、総務省の研究会をはじめ、賛否をめぐる議論に一石を投じそうだ。

(中略)

 出身地や将来の居住予定地など「払いたい地域」の都道府県を複数回答で尋ねると、1位が北海道(18.6%)、2位が沖縄(12.6%)。ともに「ふるさとだと思う地域」に選んだ人の割合(北海道11.6%、沖縄4.9%)を上回った。

 以下も大阪(7.1%)、京都(7.0%)、東京(6.9%)と続き、知名度やイメージが「集金力」に直結している

(着色は筆者による。以下同様)

 「賛否をめぐる議論に一石を投じそう」というが、こんな意識調査についてそんな論考を紙面に載せる新聞に私は石を投げたくなる。

 情報源の政策過程研究機構の「「ふるさと納税」に関する20代〜30代の意識調査」調査結果を発表しました。」から、『「ふるさと納税に関するアンケート調査」 概要』を見てみよう。

 都道府県名が47個も並んでいて複数回答を求められたら、回答者はどう感じるだろうか。

 北海道と沖縄県の回答が群を抜いて多かったのは、本当にその県への納税を希望しているからだろうか?

Q6 払いたい地域が含まれる都道府県を、全てお選びください。(あなたのふるさとでなくても、応援したい/将来移住したい/特典が期待できる、などの観点で選んでいただいても結構です)(回答はいくつでも)
Q5 にて「0 割(払わない)」以外を選択した方のみお答えください。

・「北海道」の18.6%と「沖縄」の12.6%が群を抜いて高い。
・大都市の多くは上位に入っており、必ずしも地方に流れるという構図ではない。

北海道 18.6%
沖縄 12.6%
大阪 7.1%
京都 7.0%
東京 6.9%
静岡 6.6%
兵庫 6.3%
神奈川 5.9%
新潟 5.6%
長野 5.6%
福岡 5.6%
愛知 5.5%
青森 5.3%
岩手 5.0%
宮城 5.0%
秋田 4.6%
福島 4.6%
千葉 4.6%
埼玉 4.3%
鹿児島 4.3%
熊本 4.1%
広島 4.0%
愛媛 3.8%
長崎 3.8%
宮崎 3.8%
山形 3.7%
島根 3.7%
三重 3.6%
大分 3.6%
茨城 3.4%
群馬 3.2%
栃木 3.1%
香川 3.1%
富山 2.9%
石川 2.9%
滋賀 2.9%
奈良 2.9%
鳥取 2.9%
福井 2.6%
岐阜 2.6%
和歌山 2.6%
佐賀 2.6%
山口 2.5%
高知 2.5%
山梨 2.2%
徳島 2.2%
岡山 1.8%

(おそらく、実際のネット調査では北から南に都道府県名を列挙して回答者に選ばせた、そしてこのリリース資料では回答の多い順に都道府県を並べ替えているだろう。)

Q1 あなたがふるさとだと思う地域が含まれる都道府県を、以下より全てお選びください。(回答はいくつでも)

・上位は、北海道・東京・大阪・愛知・青森など。
北海道や青森、新潟などが上位に来ている背景には、出身地であること以外の理由で「ふるさと」を選んでいる人の存在があると考えられる

北海道 11.6%
東京 10.0%
大阪 8.0%
愛知 7.4%
青森 7.2%
新潟 7.0%
神奈川 6.7%
宮城 6.6%
秋田 6.6%
兵庫 6.6%
岩手 6.4%
福島 6.0%
長野 5.9%
静岡 5.8%
福岡 5.8%
山形 5.7%
埼玉 5.7%
熊本 5.7%
鹿児島 5.7%
愛媛 5.3%
島根 5.0%
大分 5.0%
富山 4.9%
沖縄 4.9%
千葉 4.8%
山口 4.7%
三重 4.6%
鳥取 4.6%
宮崎 4.6%
石川 4.5%
福井 4.5%
香川 4.5%
長崎 4.5%
岡山 4.4%
茨城 4.3%
広島 4.3%
京都 4.2%
高知 4.2%
群馬 4.1%
和歌山 4.1%
佐賀 4.1%
岐阜 4.0%
徳島 3.9%
栃木 3.8%
滋賀 3.8%
山梨 3.4%
奈良 3.3%
その他・海外等 1.5%

 政策過程研究機構の分析は「北海道や青森、新潟などが上位に来ている背景には、出身地であること以外の理由で「ふるさと」を選んでいる人の存在があると考えられる。」とあるが、47個も選択肢が並んでいたら、知名度やイメージよりも、面倒くさいという気持ちが先に立つのが人情ではないだろうか。

 どうせ複数回答だし、と、最初に目に入ってきた北海道をクリックしてしまう、というのが関の山では。

 asahi.com について、よい点を酌むとすれば、意識調査といってもそれはネット調査であることを言及し、かつ、政策過程研究機構発表の「統計的有意性は確保」「地域分布の代表性も確保」という文言を鵜呑みにせず、そこには書かれていない回答率をあえて計算して明記したこと。この点、産経新聞よりはマシである*1

asahi.com

 NPO法人政策過程研究機構が今月中旬、インターネットで調査を実施。ヤフーリサーチのモニターから3451人を抽出し、1172人から回答を得た(回答率34%)。

 政策過程研究機構のリリースには、回答率は書いていない。

(政策過程研究機構のリリース)

■ 調査手法

調査方法: インターネット調査

実施期間: 2007年6月13日(水)〜2007年6月15日(金)

実査機関: インテージ インタラクティブ (Yahooリサーチ)

調査対象: 学生と専業主婦を除く、個人年収103万円以上の20〜30代男女(パート・アルバイトを含む)

抽出方法: Yahooリサーチのモニターパネル(149万人)より20〜30代の男女3,451人を抽出。調査への回答を依頼し、有効回答1,172サンプルを得た。

 国勢調査に基づく人口推計(2007年5月 総務省統計局発表)では20〜30代人口は 3,424万3千人であり、この母集団を 95% 有意水準にて統計的に代表する最低限のサンプル数は384である。よって本調査対象サンプル数の統計的有意性は確保されている。

 なお都市規模別の人口分布は、本調査実施の際に回答者の居住地域が都市規模別に実際の分布に近似するよう割り付けを行っており、地域分布の代表性も確保している。

 「サンプル数の統計的有意性」とは意味不明。有意性を言うなら、標本の大きさを対象に有意性をうんぬんするのではなく、推計値を対象にして有意性を述べるべき。だいたい、依頼に対して、66%も回答がなくって、母集団を「統計的に代表」できるのか?

 そもそも、ネット調査には「高学歴、労働時間が短い、不安・不満が強い」というバイアスが入り込みやすいことに留意しなければならない。

*1:06年10月東京都品川区長選挙に関して政策過程研究機構が行ったネット調査のリリースを産経新聞は「20〜30代高い関心、7割「投票する」」と報道したが、蓋を開けてみればその回の投票率は、過去最低の記録を更新した。d:id:hottokei:20061003 その時の産経新聞の記事には、このネット調査が回収率=45.3%であったことを報じていない。