年金財政「暫定試算」は、逆算の政策。帳尻合わせとは呼ばせない。
厚生労働省 社会保障審議会年金部会 の2月6日「人口の変化等を踏まえた年金財政への影響(暫定試算)」に関して、2月8日産経新聞は、偏狭な指摘を展開している。数値目標が先にあってそれに数字を合わせている、というのは、コインの片面しか見ようとしない態度である。
本当に百年安心できるのか。現役世代の50%を維持できるのだろうか。今回、厚生労働省が試算した厚生年金の「給付水準」(現役世代男子の平均手取り月収に対する夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金月額の比率)のことである。昨年末に公表された新たな将来人口推計をもとに試算した。
2055年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の平均数の推計値)は、1・39になるとの見通しだった。それが新人口推計では、1・26にまで下がった。将来の担い手となる子供の数が減ると、年金を支える財政が破綻(はたん)しかねない。このため、厚労省は給付水準を試算し直した。ところが、結果は出生率が下がったのに、給付水準は上がった。どうしてこんな妙な結果になるのか。
試算の前提となる将来の経済情勢、つまり、景気の動向や年金積立金の運用利回り、賃金上昇率などを高く見込んだからである。
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経済情勢は水物である。出生率と同様、将来までは予想しにくい。甘い見通しに全面的に依存した試算はどこまで信頼できるのか。社会保障の専門家も「信用性は低い。現役の50%という数値目標が先にあって、それに数字を合わせた感じ」と指摘する。
その専門家の指摘は、まったくの逆である。今回、年金部会が採ったのは、政策立案手法の新機軸であり、これは、逆算の政策、数値目標実現のために必要な政策のリバースエンジニアリングである。
この暫定試算では、以下の3つの仮定に置いている。
- 将来人口:厚生労働省 社会保障・人口問題研究所Population Projection for Japan
- 労働力率:厚生労働省:「人口減少下における雇用・労働政策の課題」(雇用政策研究会報告の取りまとめについて)
- 経済:足下(〜2011年)は、経済財政諮問会議日本経済の進路と戦略(1月25日閣議決定)がうたうところの「新成長経済」、それ以降(2012年〜)はオリジナルの条件設定
「暫定試算」の3つの仮定のうち、後の2者はいずれも、政策的要請から組み立てられた背景を持つシナリオである。
安倍政権は、その政策的要請に応え、実現に向けて努力を傾ければよい、それだけのことである。
- 労働力率については、「暫定試算」PDFの5/14頁に掲載の表を見ると、「平成17年7月推計」の仮定が用いられている。
女性30〜34歳の労働力率は、62.7%(2005年)を80.4%(2030年)にすればよいのである。
平成17年7月推計
(労働市場への参加が進むケース)平成14年7月推計 (参考)
平成17(2005)年実績男性60〜64歳 89.4%
(2030年)85.0%
(2025年)(70.3%) 女性30〜34歳 80.4%
(2030年)65.0%
(2025年)(62.7%)
- 経済前提については、「暫定試算」PDFの4/14頁にはこうある。
経済前提について
長期の経済前提については、平成16年財政再計算では平成13〜14年頃の経済動向を踏まえて設定されていたが、近年の経済情勢が当時よりも好転していることを踏まえ、次の2つのケースを設定した【基本ケース】(最近の経済動向を踏まえた前提)
平成16年財政再計算と同様の手法で、直近の実績を踏まえ基礎数値の見直しを行って設定した。【参考ケース】(平成13〜14年頃の経済動向を踏まえた前提)
平成16年財政再計算における基準ケースを用いた。
好転した近年の経済情勢を、成長力底上げ上げ底をして、継続すればよいのである。
- 将来人口が、唯一、この「暫定試算」の中で、政策的影響を受けていないと思われる仮定。
この将来人口を d:id:hottokei:20070126で取り上げた仮定人口推計で置き換えて、出生率に関する国民の希望までもを叶(かな)えれば、「暫定試算」PDFの11/14頁にあるように、「年金100年安心プラン」の達成は万全である。