「暗証番号はなぜ4桁なのか? セキュリティを本質から理解する」 岡嶋裕史 光文社新書

暗証番号はなぜ4桁なのか? セキュリティを本質から理解する (光文社新書)

 書名に掲げる暗証番号という入り口論もさることながら、情報に関するセキュリティに関する造詣をどれだけこの本がもたらしてくれるか、値段も安いし、と軽い気持ちで購入。結果は、やはりそれなりでした。

 面白かったのは、

  • Windows XPにはパスワードの長さ、変更禁止期間、有効期間、履歴記録、要求する複雑さなどの条件を定義できる「ローカル セキュリティ設定」という画面がある、らしい
    (実際には、私のWindows XP Home SP1では、そんなものは見つからなかった。@ITの記事にあるように、「コントロールパネル」-「ユーザーアカウント」をたどっても、「詳細設定」が出てこないのである。
  • Excelの信頼性について"=(1.1-1-0.1)"というワークシート演算を例に言及(演算結果は、8.33E-17となる)。ちなみに、OpenOffice Calcでは、同じような真似はしない。
  • 現金自動支払機にまつわる経緯(あるいは、トリビアともいう)

 大学でセキュリティについて講義をしても学生の食いつきがよくない、という経験から、著者は、セキュリティに関して既に確立されている網羅的教科書執筆手法に対する代替策として、新しいスタイルを企画して本書を著したという。その意図には賛同する。しかし、「新書」という様式は現代の専門知識を初学者にコンパクトに提供するという使命を負っている、という前提、期待で本を手にする読者(筆者(私)のことです)には、ブログ的な感覚で本の内容密度を薄められているようで、不満が残る。これが若い人(著者は1972年生まれ)の新書に対する感覚なのだろうか。あるいは、私が古い人間なのか。

 特に、第6章「暗証番号にはなぜ法律がないか ITに馴染まない護送船団方式」は、章として独立させるには堀り方が未熟さが残る。

 情報通信とそれら犯罪の技術スピードに政府・法令がついていけるわけもない、ということの説明のために、未成年者喫煙防止法の罰金額が10円だったという例を持ち出すのは、ピントがずれていないか。「後追い」はおろか「後の祭り」的な行政の対応の数々を列挙するのが、よほど文章として説得力を持ち、読者に対する警鐘として効果的。

 お上(かみ)、法令に期待できないからといって、本書は各企業が設けるセキュリティポリシーやセキュリティ監査に言及しているが、それもなんぼのものか。HACCP取得雪印工場の食中毒事件の事例を想起すれば、白けてしまう。

 本章の主旋律にとって脇道に過ぎない「護送船団」を章の副題にまで持ち上げるのは、名付け方としては適切ではない。もっとも、著者の金融機関系研究所所属時のエピソードにはそのアホくささには、私も、同意するが。

 この本、同僚や編集者からの助言を仰いでいれば磨かれたものを、と思う。そのような推敲作業がこの本で本当に行われたのか、定かでない気がする。

 行政ではなく、政治主導の名の下に、8月国会可決成立、来年2月から施行の預金者保護法は、預金者にとってはよいが、金融機関にとってどれだけ実効性のあるものか、見物である。この法律の動きを本の内容に反映させるには、この本の脱稿時期からいって無理があるかもしれない。

 9月15日、政府は、大臣級の情報セキュリティ政策会議第2回を開催、政府機関及び重要インフラの対策を決定したという。